夢の中で



ゆったりとどこかを漂うような感覚
自分と他との境界が、酷くあいまいな気がする

あぁ、俺、夢見てるんだ

そんな不思議な感覚の中、俺はぼんやりとそんなことを思った
時々こうして、自分が今夢の中にいるんだとわかってしまうことがある
明晰夢というらしいが、仕組みなどは俺もよくわからない
ふわふわとした意識の中、ふと体が何か温かくて大きなものに包まれているような感覚を覚える
その心地よさに、ほう…と小さく息を吐きながらも、俺の体に触れるものの正体を探る
すぐに霧散してしまいそうな意識をかき集めると、おぼろげに体を包んでいるものの形がわかってくる
俺じゃない、誰か
誰かに、俺は抱きしめられている
それを理解すると、不意に髪を柔らかく撫でる手に気が付いた
甘やかすように、ゆっくりと頭をなでてくれる手は、とても気持ちがいい
もっと…と反射的に思い、夢の中だからか、まるで俺の思考を読んだようにその手は俺の髪をなで続ける
その心地よさに少しだけうっとりしていると、段々と俺を抱きしめる相手の輪郭がはっきりとしてくる
髪を優しく梳くように撫でる指は太くて少し皮膚が厚く、俺を抱きしめる大きな体は温かいけれど柔らかさはない
どちらも、おそらくは男のもの

あぁ、またか
一通り観察して、俺は少しだけため息を吐きたいような気分になる
男にこうして優しく抱きしめられる夢を見るのは、初めてじゃない
精神的に弱ったときに、こうして時々誰か…大体は男に抱きしめられる夢を見る
誰かに護ってもらいたい、俺より大きな存在に抱きしめて甘やかしてもらいたいという、精神的に弱っているときに陥りがちな願望が、わかりやすい形で出てくるのだ
最初はそんな夢を見る自分が情けなかったが、最近は自分の精神状態を測るための一種のバロメーターのようなものだと割り切っている
そういえば最近執務室に篭って書類整理ばかりやっていたから、気付かないうちにストレスが溜まっていたのかもしれない
過剰なストレスを感じるとネガティブな思考に陥りがちになるのは、自分でも自覚している
目が覚めたら、書類整理は後回しにしてゆっくりマテ茶でも飲んで、美味しいもの食べて、それから少しキルハウスで体を動かそう
ストレスが溜まったときは、気分を楽にして体を動かすのが一番だ
心地よさに身を任せながら、目が覚めた後の予定をぼんやりと考えている時
ふと、気が付いた
俺は、今俺を抱きしめている相手を知っている

この夢を見るとき相手はわからないときが多いが、時たまわかる時もある
父親だったり、日本にいたとき可愛がってくれた米兵だったり、大学で親しかった教授だったり、自衛隊時代よくしてくれた先輩だったり
大抵は俺が尊敬していたり、慕っていたりしている相手
でも、今日の相手はそのうちの誰でもない
だけど、俺はコイツをよく知っている
誰だ?どうして俺はコイツを知っていると言い切れる?

誰だか知っているのに思い出せないもどかしさに頭を悩ませていると
するり、と髪を撫でているのとは別の手が、体に触れる
指先が体に触れた瞬間、今までの心地よさとはまるで別の感覚が広がっていく
温かくて優しい気持ちよさじゃなくて、性的な快楽
しかも体を撫でる手も、明らかに性的な意味を持っている
その感覚に、思考が一気にパニックを起こす
こうして男に抱きしめられたり、撫でられたりする夢を見るのは、初めてじゃない
けれどその夢が、こうして別の夢に…いわゆる淫夢へ変わったことは今までにない
反射的に体を動かして逃れようとしたが、夢だから行動が読まれているのか、髪を撫でていた手が背に回り、しっかりと俺の体を拘束する
その間も、ゆっくりと手は体を撫で回す

「(ん…んぅ…)」

ただ体をなでられているだけなのに、どうしようもないくらい気持ちいい
まるでその場所から溶けてしまいそうなほどの快感に、思考がドロドロと蕩けていく

「(…あぁ、ぁ…)」

声など出ていないはずなのに、自分の淫らな声が頭の中で響く
その声を掻き消したくて頭を振ると、俺の体を好き勝手にしている男が少しだけ笑ったような気がした
その腕から逃げようにも、まだ半分眠りの中にいる頭と、快感に犯され始めた思考では上手く判断が出来ない
早く目を覚ませ、と必死に思っているのに、どうしてだか目は覚めない
もうどうしたらいいかわからなくて、ただされるがままに身を任せていると

―カズ

訪れた絶頂にも似た快楽の中
遠くで、近くで
俺のよく知る人間の声が響く
その瞬間、わかった
あぁ、俺を今抱きしめているのは…

そこで、目が覚めた

「…っ!?」

目を開けた瞬間慌てて飛び起きて、反射的に下着の中に手を突っ込み

「よ…よかった…」

指先に濡れた感触がないことに、ひとまず安堵した
あんな夢を見て、その上夢精したなんてことになったら一生立ち直れない
…もう、立ち直れないかもしれないけど

「どうして、あんな夢…」

改めて自分が見た夢を思い返して、1人頭を抱える
スネークに抱きしめられて、いやらしいことをされる夢
前半部分は、わからないでもない
俺はスネークを尊敬しているし、とても懐の大きな男だと常日頃感じているし、親しくしたいと思ってるし、それに俺が知っている中で一番強い男だ
そんな男の姿を借りて護ってもらいたいという願望が姿を現しても…負けたくない相手でもあるから一万歩ぐらい譲ってだが、ありえなくもない
けれど、後半は
夢の中のスネーク…俺の願望の産物は、明らかに性的な意味を持って俺に触れた
そして俺も、その手を気持ちいいと思った
ただ、触れられていただけだったのに

「…欲求不満も一緒に出んだ、そうに違いない」

そうだ…精神的に弱っているところに、人肌が恋しいという欲求が重なれば、あんな夢を見ても不思議じゃない
抱きしめるという行為から、性的なものへとシフトするというのはよくあることだ
そういえば、最近忙しくて女の子と遊んでいないし、色々ごっちゃになったんだろう
それがたまたま、スネークの姿を借りて現れただけだ

必死で自分にそう言い聞かせながら、気分を切り替えるためにシーツを乱暴に撥ねて簡易シャワー室へと足を運ぶ
乱雑に服を脱ぎ捨てて熱いシャワーを浴びながら考える

もう、今日は仕事休みにしよう
最近忙しくてほとんど休んでなかったし、疲れすぎてちょっと思考がおかしくなってるに違いない
マングースにも働きすぎだから休めって言われてたし、今日中に片付けなきゃならない書類はないし、休んでも問題ない
飯食って午前中はゆっくり休んで、それから体を動かしてストレス発散しよう
それから久しぶりに、女の子に声掛けよう
サウナの一件で少しは慎めと説教は喰らったが、女に手を出すなといわれたわけじゃない
ちょっとくらいなら、問題ないだろう
一日休んでリフレッシュして、それから欲求不満も解消すれば、あんな馬鹿げた夢すぐに忘れるさ

今日一日の予定をたて、俺はあの夢を無理矢理頭の隅に押し込めながらシャワーのコックを捻って湯を止めた

















毎度おなじみ突発文でございます
何となくスネークの夢を見るカズが書きたかった
あ、ちなみにまだできてませんこの2人(オイ)
何度2人の始まり的な文章を書けば気が済むのかという声は聞こえません
だって楽しいんだもん、まだできてない2人

続きそうで続かないかもしれないし、やっぱり続くかもしれない

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