あるマザーベースの日常



その日、マザーベースにはある種不穏な空気が流れていた
とはいっても、何か問題が起こったわけではない
ただ、ある種の異常事態が発生しているのだ

「よう、ポーカーか?俺も混ぜてくれ」

「え!?え…えーっと…」

その異常事態に遭遇した兵士…食堂の隅でポーカーに興じていたMSF隊員たちは、光景の元凶…ニコニコと自分達に笑いかけるミラーとある一箇所を交互にと眺めながら、戸惑ったように顔を見合わせた
ミラーは副指令ではあるが、まだ若いせいか畏まられるのをあまり好まない
何かしらのゲームをしている隊員たちに駆け寄り、明るく笑いかけて親しげに話しかける
それ自体は、いつもの光景だ

その足元に、無言で土下座をしているスネークさえいなければ

しかも、ミラーは足元で土下座するスネークをまるで存在しないもののように扱い、見向きもしない
それどころか、故意かそれとも偶然かは判別できないが、移動の際時々スネークの頭を蹴飛ばしている
だがスネークもスネークで、蹴飛ばされても文句を言うわけでもなく立ち上がって移動するミラーの数歩後ろを黙ってついて歩き、ミラーが立ち止まれば黙って足元で土下座を再開する
そんな異常事態とも呼べる光景が、朝から半日近く続いている

あまりの事態に、何があったか訊ねようとする勇者とも呼べる隊員もいたが

「あの、副指令!ぼ、ボスは一体何を…」

「ん?」

「で…ですから、ボスはどうして副指令の足元で土下座なんか…」

「あ、悪い、ちょっと聞こえなかった…で、何?」

ミラーの絶対零度すら通り越した冷たい、一種の威圧感すら感じる微笑に

「い…いえ…何でも、ありません…」

全員がそれ以上の追求を諦め、涙目になりながら引き下がった

「だって…だって、綺麗な顔で笑ってるのに、目が笑ってなかったんだよ…あんな怖い副指令、俺初めて見た…」

生まれたての小鹿のように震え、涙ながらにそう語る隊員(実戦部隊でも屈指の実力者)の姿に、他の隊員たちはそのことに触れていはいけないのだとイヤでも理解した

何があったか、聞きたい
だが、聞けばミラーのあの笑みを目の当たりにしてしまう
昼過ぎに、隊員たちがようやく見つけ出した解決方法は

「どうしたカズ、やけに機嫌が悪そうだが?」

ミラーととても仲がよく、スネークですら逆らえないある意味このマザーベースでの裏ボスとも呼べる存在、ストレンジラブ博士に理由を聞いてもらうことだった

「別に機嫌悪くないけど…何で?」

いや、足元のボスを見れば何かがあったことは明白でしょう!?
博士の問にきょとんとした表情で返したミラーの言葉に、ある一点から一定距離を置いて過剰に人が密集した…後世に言うドーナツ化現象にも近い状態となっている食堂中にいる隊員たちは、一斉にそう突っ込みたくなるのを我慢した(もちろん、その中心にいるのはミラーと土下座中のスネーク、そしてストレンジラブ博士だ)
だが、そこはAI兵器とママルポッドの生みの親、心理学にも精通し頭の回転も早い博士

「いや、眉間の皺がいつもよりも濃い気がしたからな。勘違いならすまない」

ミラーの足元で相変わらず土下座を続けるスネークの事には一切触れず、無難な言葉を返している
ただ、面倒かけやがってとでも言いたげに、足元のスネークの頭を遠慮なしにぐりぐり踏んではいるが

「え、マジ?そんなに?」

「あぁ、察しのいい隊員たちも心配していた。機嫌が悪いんじゃないなら、何か悩みでもあるのか?私でよければ相談に乗るぞ」

「…博士、何か今日やけに優しくない?」

「今日の私は機嫌がいい。友人の悩みや愚痴を心穏やかに聞いてやれるくらいにはな」

にこり、とまるで弟を心配する姉のように優しい笑みを浮かべ…その足元ではスネークを踏んでいるが…博士に、ミラーの表情が崩れ、むすっとしたようなものへと変化する
幼い頃から打算で人間関係を築きがちだったミラーは、実は友人という言葉に案外弱い
もちろん利用するつもりの人間に言われても1ミリたりとも心動かされたりはしないが、自分が親しくなりたい、損得勘定なしに付き合いたいと思っている相手に友人といわれると、意地や仮面が割と簡単に剥がれ落ちてしまう
もちろん、そのことを知っているのは一部の人間だけだが

「…スネークがさぁ…」

友人という言葉に心動かされ、ようやく素が出始めたミラーがぽつり、と零した言葉に、食堂の空気が一気に緊張する
スネークの名前を出したということは、これから語られることこそ今回の異常事態の原因なのは間違いない
ゴクリと唾を飲みながら見つめるもの、ボスは何をしたのかと小声で話し合うもの、何一つ聞き漏らすまいと聴力を限界まで研ぎ澄ませるもの
三者三様のリアクションでミラーの言葉を待ちわびる隊員たちの耳に
どこか拗ねたようなミラーの言葉…この事態の原因が届いた

「………俺が楽しみにしてた、マウンテンデューとドリトス(ナチョ・チーズ味)…勝手に食いやがった…!」

く、くだらねぇ!!!!!

思いも寄らなかった原因に、成り行きを見守っていた隊員たちの心が瞬時に1つになった
中には、椅子から転げ落ちるほど脱力したものもいる

「そうか…それは完全にボスが悪いな」

だが、そこはさすがのストレンジラブ博士
くだらないなどとはおくびも顔に出さず、けれどスネークの頭をガッと踏みつけながら、信じられないとでも言いたげな声で軽く首を振る

「だろう!?最後のデューとドリトス(ナチョ・チーズ味)だったのに!生産おっつかなくて、次に増産されるのは一週間後なのに!!」

ミラーも怒りが再燃してきたのか、拳をプルプル震わせながら怒気の混じった声でそう叫ぶ
娯楽の少ないこの洋上プラントでは、食事やおやつが最大の楽しみだという兵士も少なくない
そんな兵士達にとって最近開発されたばかりのこの二つは格好の娯楽となり、さらに出来の良さから他の兵士達もこぞって消費するので、あっという間になくなってしまう
糧食班も菓子類ばかり作っているわけにはいかないので、ある程度のローテーションを組んで生産しているのだが、あまりの人気に生産が追いつかないことが間々あるのだ

「仕事終わったら飲もうと思って大事に取っておいた最後の一本だったのに…仕事の合間のおやつにって楽しみにしていた最後の一袋だったのに…!!」

若干涙目になりながらそう語るミラーに、あまりのくだらなさに脱力していた隊員たちに若干の同情が生まれる
副指令であるミラーの仕事量は、このMSFの中でも群を抜いている
仕事の合間のストレス解消にと、楽しみに取っておいたおやつを勝手に食べられれば、それは怒り狂いもするだろう
その相手がミラーの仕事量を増やしまくっている諸悪の根源であるスネークならば、なおさらに
これほどの仕打ちを受けたくなるのも、わからない気がしないでもない気がしてきた
ただ、くだらないという感情が強すぎて本当に若干の同情ではあったが

「まぁ、適当なところで許してやったらどうだ?ボスも悪気があったわけじゃないんだろう?」

「やだ!スネークがデューとドリトス(ナチョ・チーズ味)もって謝りにくるまで絶っっっ対に許さん!!」

だが、怒り狂っているミラーは隊員たちの視線など何処吹く風で、だんっと机を力いっぱい叩きながらそう宣言した
次の瞬間、机の下からなにやら打撃音とぐっ…と小さな呻き声のような音が聞こえてきたが、隊員たちは満場一致で空耳だということにしておいた

その後、話を聞いた糧食班が徹夜でマウンテンデューとドリトス(ナチョ・チーズ味)を緊急増産し、いっそ鳥の巣のほうがましだという状態の頭になりつつあったスネークに密かに渡し(その隊員は背骨の骨が折れるかと思うほど熱烈な抱擁を感謝をされたらしい)
機嫌良さそうにドリトス(ナチョ・チーズ味)を頬張るミラーの姿と、その横で心底ホッとしたようによく冷えたデューとドリトス(ナチョ・チーズ味)を貢ぎ…いや、手渡しているスネークの姿が見られたのは、それから2日後のことだった


















え?この話の意味?
ないに決まってるじゃないか!(待て)

ふと土下座するスネークとそれを完全無視するカズが思い浮かんで、突発で書いてみた
ある意味、マザーベース中を巻き込んだ痴話喧嘩をする2人の話になってしまいましたがw
いやだって、カズの私室にある物をスネークが勝手に食べるって言ったら…ねぇ?

ギャグのつもりだけど、ギャグになりきれていないことは明白
お客様、お客様の中でギャグの書き方をご存知の方はいらっしゃいませんか!?

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