捜索と捕獲とこれからと・1



興奮しきったカズから思いも寄らない告白を受けてから、早5日
あの日…正確には俺の部屋から飛び出していた背中を見送って以来、カズとは顔を合わせていない
別に俺が任務に出ていたというわけでも、カズが部屋に閉じこもっているというわけではない
ものっすごく徹底的に、避けられている
顔を見ていないどころか、気配の1つすら感じられない
いや、最初は俺もどんな顔をしてカズに会えばいいのかわからなくて、少々避けていたのは認める
だが、さすがに1日以上気配すら感じられないとさすがに心配になってきた
兵士達が騒いでない以上、問題は起きていないはずだが…それでも気になって

「おい、カズ知らないか?」

手当たり次第、兵士達にそう尋ねてみた
その結果、まぁあんなことがあったから当たり前と言えば当たり前かもしれないが、カズが俺を避けているらしいことに気が付いた
聞いた兵士達はやれキルハウスにいただの、この時間は副司令室にいらっしゃるのでは?と色々教えてくれるのだが、俺が実際その場に行くとすでにカズはいなくなっている
飯時ならいるだろうと、食堂何度も足を運んだりしたのだが

「おい、カズ知らないか?」

「副指令でしたら、先ほど食事を取られていましたが…見当たりませんか?」

一体何処で察知しているのか、見事に俺が覗きに来る直前に飯を食っている
ここまで隠れられると、どうにも探したくなってしまう
副指令室で張り込んでみたり、マングースをひっ捕まえて人質代わりにしてみたり、ほんの僅かに残っている痕跡を探り行動を予想して先回りしたり
色々試したが、どうにもカズのほうが上手なのか上手く捕まらない
さらに悪いことに、向こうも俺が探していることに気が付いたらしく

『探さないでくれ』

というシンプルなメッセージがいつの間にか俺の部屋の机の上に置かれていた
それでも探しまくっていると

「おい、カズ知らないか?」

「へ?あぁ、ここにいますよ?ミラーさん、ボスが………あれ、いない!?」

出入口は俺が入ってきた場所のみ、室内には特に隠れるところも見当たらないという状況で
まるで煙のように姿を消したという、人間離れした芸当を見せ付けてくれた

『よその国の人間には本来教えないが…実は日本人は皆、幼少期から忍者になるための修行をしているんだ』

以前カズがチコに冗談交じりにそう話していたが、今ならその話が信じられる
まさに今のアイツは忍者、隠密行動という面においては完璧すぎる
もうアイツが任務に出ればいいんじゃないか?
あれほどの隠密行動が可能なら、たとえ戦場でも誰にも気付かれず任務を遂行できるに違いない

「…さて、どうするか…」

この奇妙なかくれんぼが始まって、すでに5日
さすがに俺も疲れてきたし、向こうもそれは同じだろう
あまり長引けば、この状況を脱するために長期任務を押し付けかねない非常に有能な副指令の顔を思い浮かべながら、ため息を吐いた
長期任務でも行ってほとぼりが冷めれば出てくるかもしれんが、それはそれで気に食わない
やはり、早々にカズをとっ捕まえるべきだ

「この手は使いたくなかったんだが」

カズは忍者かもしれないが、俺だって色々な技術を駆使して戦場を生き抜いてきた
やり方にこだわらなければ、いくらでも手のうちようはある
少々強引だが、カズと話をするためには、アイツをとっ捕まえるためには致し方ない

「…え?な、なんで!!?」

案の定、5日ぶりに顔を合わせたカズは、状況が全く理解できていませんというのを隠そうともせず俺を見つめている

人間という生き物は、安心できる場所で休みたがるものだ
戦場で常に死の危険に晒されている人間なら、なおさらに
まぁつまり、どれだけ俺を避けていようとも、夜になり眠くなれば自分の部屋に帰ってくる
平たく言えば、カズの寝室で待ち伏せした
もちろん、カズには無断でだ

いきなりのことに面食らったのか固まったカズが逃げ出さないように部屋の奥へ引っ張り込み、扉側に陣取る
この間のように、いきなり逃げられても困る
ぽいっとベットに放り投げられたカズはようやく我に帰ったのか、慌てて立ち上がるがもう遅い
カズがこの部屋から逃げようと思ったら、俺の後ろにある扉しかない
オマケにこの部屋の構造は、俺の部屋のものと同じ
脱出経路も十分すぎるほど把握している
つまり、いくらカズが忍者でも逃げやれやしない

「…最っ悪、アンタなんで人の部屋勝手に入ってんだよ」

カズもさすがにここまでやれば逃亡を諦めたのか、大きなため息を吐いてベットに崩れ落ちるように座り込んだ

「お前が逃げるからだろ?」

「アンタから逃げて何が悪い…」

ようやくカズを捕まえた満足感に浸りながら隣に腰を下ろせば、カズはチラリと俺を見やり、再び盛大にため息を吐いた
5日ぶりに見るカズは、案外元気そうだった
皮肉も声もいつもどおりだし、頬もいつもと同じようにハリがあるし血色もいい
俺に捕まって悔しいのか多少涙目だが、珍しくサングラスを外している目元に目立った隈もない
どうやら健康そのものらしいカズに、密かにホッと息を吐いた

「…で?」

カズが元気そうなことに安堵していると、どこか投げやりな声と共に機嫌の悪そうな瞳がこちらに向けられた

「ん?」

「ん?じゃない!理由だ理由!あんなことあって避けられてるってわかってるのに、人の寝室に忍び込んでまで俺を捕まえた理由だよ!!」

もうヤケクソなのか、カズは早口にそう怒鳴り散らしながら、座った目で俺を睨みつけてきた

「り、理由?」

「不法侵入してまでとっ捕まえるくらいの重大な!ものっすごい理由があるんだろ!?例えばこないだの告白の返事とか!!気付いてないとか言わせないからな!!」

その言葉に、ぷわりと背中に大量の汗が浮かぶ
…理由なんて、何一つ考えてなかった
ただ、俺から逃げるカズをとっ捕まえたいという感情だけで行動していたが、その先は全く考えていなかった
それに半分…いや、ほぼ頭から飛んでいたが、5日前俺はカズからいわゆる告白というものを受けた
ということは、何かしらの返事を返さなければならないということだ
そんな簡単な事実に今気付き、内心焦る
その部分については、本当に何一つ考えていなかった

「…アンタ、なんっにも考えてなかったろ」

が、カズにはそんな俺の思考なんてお見通しだったらしく、じとり…とどこか軽蔑すら含む目で睨みつけられる
その視線の居心地の悪さに、引きつる頬で曖昧に笑って見せると、カズはげんなりとした様子で後ろにばったりと倒れこんだ

「もうヤダこのオッサン…俺なんでこんなの好きなの…」

腕で顔を覆いながら、若干涙声で心底イヤだと言いたげに呟くカズに、居心地の悪さと罪悪感は最高潮だ

「…すまん、カズ」

前回カズに謝るなと怒られたが、他に何を言っていいかわからない
自分のボキャブラリーのなさに我ながら呆れていると、カズが腕の隙間からチラリとこちらに視線を寄越し

「…それは、何に対するすまんだ?」

どこか憮然とした声で、予想していなかったことを口にした


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