One year passed after we had met



「いいか、持って帰れる武器はできるだけ持って帰るんだぞ」

戦闘も終わり、味方の損害をざっと確認した後一応の指示を出し
それから、もう一度念を押すように兵士達にそう伝えた
まだ使えそうな武器や兵器はできる限り持ち帰らなければならない
そうしなければ、あのドケチ…いやいや、倹約家の副指令殿の小言を聞かなければならなくなる
万が一手ぶらで帰れば、どうして持ち帰らなかったのか、組織のトップとしての自覚はあるのか、それだけ持ち帰ればどれだけの節約になるか、等々延々と説教を受ける羽目になる

「わかっています、持って帰らないと副指令から角が出ますもんね」

周りの兵士達もそれをわかっているのか、苦笑しながらまだ使えそうな武器や弾薬を文句の1つも言わずより分け始めた

金がないんだから、使えるものはなんだろうと使う
そうきっぱりと言い切る我らが有能な副指令殿…カズのおかげでこの組織、2人で立ち上げたMSFは回っている
それまでも俺は兵士を率いてはいたが、今に比べれば烏合の衆といっていいほどお粗末なものだった
その烏合の衆を見事に組織として作り直し、金策に奔走し、上手いこと回しているのはカズの手腕の賜物と言っていい
本当に、あいつを拾えたのはラッキーだったな…とぼんやりと考えていると
ふと、あることを思い出した

「おい、今日は何日だ?」

念のためすぐ側にいた兵士に、そう尋ねてみと

「今日ですか?今日は…」

その兵士が
あぁ、もうそんなになるのかと、1人呟いた

「ボス、お疲れ様でした!」

「あぁ、お疲れさん。よく休め」

今回の依頼主から借りているキャンプへと戻ってきて、一通りの確認の後わらわらと散っていく兵士達を眺めた後、俺はきょろきょろと辺りを見回した
いつもはキャンプ内を忙しく動き回っているカズの姿が見えない
雑務のために部屋に篭ることもあるが、それでも俺達が帰ってきたら大抵は出迎えてくれるんだが、今日に限ってその姿がない
どこかへ行くという話は聞いていないから、このキャンプ内にはいるはずなんだが

「おい、カズはどうした?少し用があるんだが…」

「お部屋にいらっしゃいますが…あの、今は近づかない方が…」

近くを通りがかった今日は留守番だった兵士にそう尋ねてみたが…何ともあいまいな返事が返ってきた
まさかまた女でも連れ込んでいるのか?
どこから引っ張ってくるのか知らないが、カズは時々キャンプに女を連れ込むことがある
とにかく女となれば手当たり次第口説く、さらにタチが悪いことに見た目が抜群で口の上手いカズに引っかかる女は少なくない
今はトラブルを起こしていないが、頻繁にキャンプに女を連れ込むのはいただけない

「ボス…副指令のお部屋に行くならいっしょに行っていいですか?」

もしそうなら少し説教でもするか、と考えていると、おずおずとそいつがそう口にした

「別に構わないが…」

よく見れば、そいつは書類の束を抱えている
きっとカズに提出する書類なんだろうが、俺に断らずカズにさっさと渡せばいいだろう

「あ、ありがとうございます!ちょっと1人では心細くて…」

だがそいつは俺の言葉にぱぁっと表情を明るくすると、嬉しそうに俺の後ろをついてきた
何なんだ?と疑問に思いながら、そいつと雑談をしながらカズの部屋へ向かうと…

「…これは…」

こいつがカズの部屋に行きたがらなかった理由が、何となく読めてきた
カズの部屋から、明らかに異様な空気が漏れている
さらに近づくと、パチパチと何かを弾く音と、ブツブツと低く呟くような声が扉越しにも聞こえてくる
兵士に目で促され、出来るだけ音を立てないように扉を開くと

「金足りない金足りない金足りない…畜生あのくそ爺人の足元見やがって…弾薬だってただじゃねぇんだぞコンチクショウ…くそこうなったらあっちとあそこを極限まで削って…いやそれよりも…」

どす黒いオーラを背負ったカズが、呪詛にも近い独り言を延々と呟きながら、右手で物凄い速さでソロバン…日本伝統の計算機らしい…を弾いていた
そのあまりの気迫に、俺はそっと扉を閉めた

「…凄まじいな、アレは」

思わずほう、と大きく息を吐きながらそう呟けば、よほど怖かったのか隣の兵士は涙目になりながら頷いた
言葉から察するに、依頼主と軽い金銭トラブルを抱えているらしい
今月はカツカツだとイライラした様子でぼやいていたから、余計に凄まじいことになっているのだろう
これは、俺でも出来るなら近寄りたくない

「書類は渡しておこう…お前は執務に戻れ」

ずっと怖くて近寄れなかっただろう兵士に軽く同情し、そういって手を差し出すと
兵士は涙目のままぺこりと頭を下げて、俺に書類を渡すとパタパタと走っていってしまった

「…よし」

1人気合を入れて、カズの部屋の扉をそっと開ける
今ノックでもしようものなら、銃弾が飛んできかねない
出来るだけそっと背後に近寄り、カズの右手が止まるのを待ってから

「おい、カズ」

そう、声をかけると

「あぁ!!?」

凄まじい形相とドスの聞いた声で、カズが勢いよく振り向いた
ここが戦場なら、どんな形相だろうと脅しだろうと怯んだりはしないが、ここは生憎戦場じゃない
あまりの迫力に、思わず一歩後ずさると

「…あぁ、ボスか。お帰り」

顔を見てようやく声をかけたのが俺だと認識したカズは、その形相をふぅ…と緩めて俺に小さく笑いかけた

「あぁ、ただいま。書類を預かってきた」

「わざわざありがと」

「いや、ついでだ。ちょっとお前に用があってな」

ようやくいつものカズに戻ったと、内心ホッとしながら書類を渡しながらそういえば、カズはきょとんとしたように首をかしげた

「用事?何か不備でもあったか?」

「いや、個人的な用事だ」

個人的?とさらに不思議そうな顔をするカズに、他の兵士達にばれないように隠していた物を机の上に置く
キャンプに戻るまでにある小さな街で買った、少しだけいい酒
あまり上等なものとはいえないが、いつもの酔えればいいだけの酒よりはずっとましだ

「酒?」

「あぁ、お前と飲もうと思ってな」

「皆で飲まないのか?っていうか今月カツカツだって…」

「俺のポケットマネーだ、全員分はさすがに買えない」

「珍しいな、アンタがそういうことするの」

カズは不思議そうな顔のまま、俺を見上げている
その表情に、カズは気付いていないんだなと思って何となく気分がよくなる
こういったことは、本来カズのほうがよく気が付く方だ

「ちょっとした記念日だからな」

「記念日?アンタの誕生日か何かか?」

一応ヒントを出しては見たが、カズはまだ気付かないらしい
その様子がおかしくて、思わず吹き出し

「今日でお前が仲間になってから、ちょうど1年だ」

種明かしをしてやれば、不思議そうな顔が、ポカンとしたものへと変化した
その表情の変化に、ついつい笑いが漏れてしまう

そう、今日でちょうどカズとこの組織を立ち上げて1年だ
反政府軍の教官だったカズを叩きのめし、くだらない勝負を重ね、少々強引な手段を使って仲間に引き込んだあの日から、もう1年もたったのだ

「…驚いたな、アンタがそういうの覚えてるなんて」

「俺だってコレくらいは覚えているさ。そういうお前は覚えてなかったのか?」

「ここんとこ誰かさんのせいで金策に走り通しだったからな…そっか、もう1年か」

軽い皮肉を口にしながらも、カズもどこか懐かしげに目を細める
その表情を横目で眺めながら、俺もカズとであったばかりの頃へと思いを馳せる
まだ1年なのか、もう1年なのか
あっという間だった気もするし、それ以上の歳月を一緒にいる気もする

「随分と強引に俺を引っ張りこんでくれたよな。俺と来るか死ぬかって、今考えても無茶苦茶だぞアンタ」

「はは、そりゃ悪かった」

「そのせいで俺この1年金策とかに走りっぱなしだし。せっかく男前なのにストレスでハゲたらどうしてくれんだよ?」

「いいじゃないか、貫禄が増すぞ?副指令殿」

互いに軽口を叩きあいながらも、部屋に流れる空気はどこか穏やかだ
1年前はこんな風になるなんて、想像もしていなかった
仲間になったばかりの頃のカズは、そりゃもう手負いの獣も真っ青なほど俺を威嚇していたし、俺も俺で結構結構ムキになって叩きのめした回数は数え切れない
こんなんでやっていけるのか?と思ったことも何度かあった
けれど、段々と互いに距離感を掴んでいき、カズが俺を威嚇する回数が減り、それなりに親しみを持ってくれるようになり、こうして軽口を叩き合えるまでになった
今までの仮定を思いだし、何となく野生の獣を手なずけているようだと思ったことは、カズには内緒だ
言えば、またしつこい説教が飛んでくるに違いない

「これからもよろしくな、相棒」

「我らがボスはイマイチ頼りないからな、これからも頑張ってやるよ」

「手厳しいな、副指令殿は」

「事実だろ?せっかくのいい酒だ、グラスと氷持ってくる」

そういって立ち上がったカズの声が、どこか嬉しそうに弾んでいるように聞こえて
どこか嬉しい気分になると同時に、来年はどんな風にこの日を迎えているのだろうと、ふと思う
できるなら、またこうして2人で笑いあっていたいものだ
そんならしくないことを願いながら、俺は葉巻に火をつけた

1年後、大きな事件に巻き込まれることになるとは、まだ知らないままで





















PW発売1年おめでとう記念!
まだ管理人がPWと出会ってから1年はたっていませんが、発売1年本当におめでとうございます!

記念日的なものは後半部分だけです…前半は完全に趣味です
ダークなオーラ垂れ流しながらソロバンを弾くカズが書きたかっただけだ!
タイトルはあいかわらずやっつけ仕事です
り、リクエストもさっさと仕上げます…

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