お仕置きと後悔とお怒りと・2



「葉巻がない…」

どうにか書類にも目処がつき、夕食もシャワーも終え、さて寝る前に一服するかと机の引き出しを開けたところ、またもや葉巻がなかった
前回の補給のさい、なにやら補給ルート上で問題が起こったらしく、俺の好む銘柄の葉巻がほとんど手に入らなかった
次の補給ではいつもどおりの量が手に入るだろうから、それまでこれで我慢してださいとマングースから頭を下げられたのを覚えている
そして、その補給は確か今日だった
普段なら誰かしら手渡ししてくるか、あるいは机の上に置いてあるんだが…と、執務室から持ち帰った書類の乗った机の上を探していると

「ボス、起きてる?」

トントンと控えめなノックと共に、カズの声が扉の向こうから聞こえてきた

「カズか、どうした?」

扉の向こうに声をかけると、ゆっくりと扉が開いてカズが顔を出した
その手には、いつもの葉巻の箱がいくつか握られている

「補給班がアンタに葉巻渡すの忘れてたんだ、葉巻ないと困るだろ」

「あぁ、悪いな。探してたんだ」

「まったく…アンタが自分で取りに来たっていいんだぞ?」

手を差し出せば、カズも軽口を叩きながら箱を持って俺に近づいてきた

そういえば、カズがこうして俺の部屋に来るのはあの日以来だ
あの日までは、何かにつけて俺の部屋にセクハラをしに突撃してきていたが…あの日からは姿を見せなくなったな
そう思いながら、俺に箱を渡そうとしているカズの顔を見ると、その髪に小さなゴミが付いているのに気が付いた

「カズ、ゴミついてるぞ」

「え?どこ?」

「ほら、ここだ」

珍しいこともあるもんだと思いながら、そのゴミを取ってやろうとその髪に触れた

「っ!?」

その瞬間、カズが弾かれたように顔を上げ、反射とも呼べる速度で俺の手を叩いて一歩後ずさった
箱がカズの手から滑り落ち、葉巻が床一面に転がっていく

「あ…ご、ごめん…」

はっとしたように、カズがどうにかそう口にする
だが、それよりも俺はカズの表情から目が離せなかった
いろんな感情が混ざり合って複雑な色を帯びた瞳が、俺を見ている
その表情からも、カズが今何を思っているのかは読めない
それでも、その目は俺を拒絶しているように見えた

カズのその表情に、瞳に、ようやくある可能性に思い至る
カズは、俺を怖がっているんじゃないか
以前のように触れるのすら、戸惑うほど

怖がって当然だ、あの日俺がしたのは強姦にも等しかった
いくらカズが言い出したとはいえ、カズが本気じゃなかったことくらいわかっていたはずだ
よく考えれば、あのセクハラも俺が行動に移さないと信じていたからこそ、あそこまで過剰なものだったのかもしれない
実際、あの日までカズが何を言おうと俺は応じなかったし、行動に移したこともなかった
カズが俺が何もしてこないと思い込んでいても、何の不思議もない

「カズ…すまなかった…」

そうなら、俺はカズの信頼を裏切ってしまったことになる
信じていた相手から裏切られることがどれほど苦しいか、俺は知っている
あんな思いを、カズにさせてしまった
それなのに俺は、周りに気を使って普段どおりに接してくるカズに甘えてしまっていた
罪悪感が一気に押し寄せてきて、自然と謝罪が口から零れた

「何のことだ?アンタは何も…」

「…この間のことだ」

とぼけるカズに、忘れたわけじゃないだろう?と含ませて言えば、カズはぐっと言葉に詰まった

「…あんな事をして、本当に悪かった」

そのままで視線をさ迷わせるカズに、深く頭を下げて、精一杯の謝罪をする
この行為そのものが、自己満足だとわかっている
だがそれ以外にこの気持ちを伝える方法を、俺は知らない
こんな自己満足で許してもらえるとも、思っていない
それでも俺にとって、カズは大切なパートナーだ

傷つけてしまったなら、その信頼を裏切ってしまったというのなら
俺は、その責任を取らなければならない
どうしたらいいかはわからないが、それでも俺は…

「だから謝るなって言ってるだろ!?」

どうすればいいか必死に考えていると、突然カズの叫びにも近い声が耳に飛び込んできた
慌てて顔を上げれば…カズは今にも泣き出しそうな顔をしていた

「俺がいいって言ってんのに、アンタは悪くないって言ってるのに、どうして謝るんだよ!!?」

今にも胸倉を掴んできそうなほどの気迫に、思わず後ずさりそうになる
だが、カズはまくし立てるようにそのまま叫び続ける

「アンタはいっつもそうだ!俺の気持ちなんか知りもしないで…!!」

「カ、ズ…?」

「俺がどんな気持ちだったか、知らないくせに!!いっつも!いっつも!!知ろうともしなかったくせに!!!」

興奮しきって、感情が上手く制御できていないのだろう
まるで吐き出すように、脈絡のない言葉を吐き出し続ける

「カズ、落ち着け、俺が悪かった」

「触んな!!何が悪いかわかってないくせに謝るな!!」

落ち着かせようと伸ばした手も、今度は明確な意思を持って叩き落とされる
カズがこれほど興奮するのも、強烈な感情を向けてくるのも初めてで、どうしたらいいかわからなくなる
鋭く睨みつけてくる瞳にうっすらと涙が溜まっていくのが、サングラス越しにもわかる

「カズ、落ち着いてくれ、頼むから」

どうしてカズがこんなに興奮しているのかはわからないが、とにかく落ち着かせなければ話もできない
どうどう、と手を軽く上下させて落ち着けと促してみる
だが俺のその仕草が、さらにカズの感情の乱れを加速させたのか

「うっさい!!何も知らないくせに!!俺はずっと、ずっとアンタが!!」

涙混じりの、まるで悲鳴にも近い声で

「ずっとずっと!!俺がどれだけアンタのこと好きだったか知らないくせに!!!」

思いもよらなかった言葉が、カズの口から飛び出した

「………は?」

予想だにしなかった言葉に、我ながら随分とマヌケな声が出た
だが、その声で多少は冷静になったのかはっとしたように、カズが突然黙り込んだ
それと同時に、興奮して赤くなっていた頬が、一気に首まで真っ赤になる
その反応に、いくら朴念仁といわれる俺でもカズがどうしてあんなに興奮したのか何となく察しがついた
もちろん、カズが俺に向けていた感情も

「………」

「………」

さっきまでカズの怒鳴り声が満たしていた部屋を、こんどは痛いくらいの静寂が包み込む
俺は突然のことにどう反応していいかよくわからないし、カズはカズで赤面したまま完全に固まっている
物凄く気まずい空気が、俺達の間に流れている

「あ〜…カズ?」

どうにか空気を変えようと、とりあえずカズの顔を覗き込んでみると、完全に焦点を失っている瞳と視線がかち合う
その目が、俺を映した瞬間

「…○▼※■△∵〜〜〜!!!!!」

カズは言語かどうかすら怪しいよくわからない奇声を上げながら勢いよく飛び退き、そのまま素晴らしいとしか言いようがないスピードで部屋を飛び出していった

「お、おいカズ!?」

壊れそうなほどの勢いで閉められた扉を慌てて開けて廊下に飛び出したが、すでにカズの姿は見えなくなっていた
人間というものはあんなに早く走れるのだと、混乱しきった頭でそんなどうでもいい事を考えながらとりあえず部屋に戻れば

「……葉巻…」

追いかけたときに踏み潰したであろう葉巻が、無残な姿で転がっていた
その中から無事な物を手に取り、火をつけて煙を吸い込む
これからカズにどう接すればいいか、どう謝ればいいか、どうするべきかを考えるが、俺も随分混乱しているせいかちっとも考えがまとまらない

「…どうするか」

ため息と共に煙を吐き出し、その白いもやを眺めながら小さく呟いた


















榊様リクエスト、お仕置き続編でした!
あのあとの2人が気になる!といわれた一品ですが…中途半端ですみません(土下座)
気が付いたら3話構成になってしまいまして…ゴニョゴニョ
あ、後1話続く予定です…

カズ、実はあのセクハラはアピールのつもりでした
方法を間違いすぎてスネークには一切伝わっていませんでしたが
なので、紛いなりにもスネークとヤれて実は結構嬉しかったりとか、それなのに謝られてショック受けてたりとか、謝られなきゃ俺幸せな勘違いしてられるのに!とか考えちゃってたとか、そういう部分も書きたかったですが入りませんでした

爆発してぶっちゃけたカズと、思いも寄らない展開にポカーンなスネークが書けて楽しかったです
オチとか最初とかで躓いた感MAXな作品ですみませんでした(スライディング土下座)

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