怒って拗ねた甘えたさん
「…カズ、いい加減機嫌直してくれないか?」
「………」
俺に背を向けてベットに座っているカズの背中に、もう何度目になるかわからない言葉をかける
だが、何度目かになるかもわからない呼びかけに、カズはピクリとも動かない
ただ、背中から
俺は怒ってるんだからな!
というオーラを垂れ流し、無言の圧力を俺にかけ続けている
その様子に、カズに気付かれないようコッソリとため息を吐いた
今日、カズと少々喧嘩をした
いや、よく考えれば喧嘩ではない
俺が一方的に、カズを怒らせたのだ
『明日アンタの訓練が終わったら、海に夕日を行かないか?』
カズがそう誘いをかけてきたのは、昨日の夜…正確には深夜
まぁ、やることをやった後のこと
少し照れたようにはにかみながら、ほんのりと染まった頬でそういうカズが可愛くて、頷きながら唇を塞いだのはよく覚えている
久しぶりの、カズからのデートの誘い
当然断る気もなかったし、すっぽかす気もなかった
『ボス!新しい武器の試射をお願いしてもいいですか?訓練のついでで構いませんから』
だが、昼の訓練の途中で研究開発班のやつがそう言って、ちょうど射撃の訓練中だったこともあり二つ返事で引き受けたのが悪かった
『こりゃいいな、さすがはうちの研究開発班だ』
その武器は以前カズが開発を許可したものだが、予想以上の出来に驚いた
大きさの割に軽く、威力、精度も申し分なく、それでいて限界まで反動が減らされている
すぐに実戦に投入しても問題ないクオリティだ
それにやはり新しい武器というのは、かなりテンションが上がる
どういう使い方をすればいいか、どんな状況で使うのが最適か
そんなことを考えながら、いろいろと試しているうちに時間が過ぎていき
気が付いたときには、夕日なんてとっくに沈んで月が出ていた
そのことに気付いて、慌ててカズのところへ行けば
『ようボスお疲れ、訓練は楽しかったか?』
完全にへそを曲げたカズから、冷たい微笑を浴びせられた
「カズ、悪かった」
それ以来、こうして俺の側でへそを曲げ続けている
俺の謝罪にも反応せず、ひたすらに静かに怒っている
いや、本気では怒っていない
俺に100%非がある状態で本気で怒っているのなら、自室に篭って…あれだ、日本の古い話の、アマノイワト?状態になる
誰が声をかけようがひたすらに部屋に引きこもり、マングース達の冷ややかな視線を浴びながら扉越しに謝り倒すハメになる
それがこうして自室ではなく俺の部屋で、俺の側でわざわざ怒っているときは、本気では怒っていない
少し拗ねているというか、悪いのはそっちなんだから俺の機嫌取れよとか思ってる
ようするに、約束を破ったという理由を盾に、俺に甘えているのだ
「カズ、俺が悪かった。だからこっちを向いてくれ」
ただ、少々厄介なのは甘やかすタイミングを間違えると、途端にアマノイワトと化すことだ
寂しがり屋の甘えただが、プライドが高いという厄介な性格のカズは、こうして暗に甘やかして欲しいといっているくせに、下手に甘やかすと余計に怒る
早すぎてもいけないし、遅すぎるのは論外だ
そのタイミングを見極めるのは骨が折れるが、苦痛ではない
ひたすらに謝りながら、カズの背中を観察する
「………」
やがてもぞり…と、今までピクリともしなかったカズの背中が小さく動く
それを合図に、カズが転がっているベットに腰掛けて、ややセットの乱れた髪に触れる
その手が振り払わないところを見ると、タイミングはあっているらしい
「悪かった、いくらでも謝るから機嫌を直してくれ」
わしゃわしゃと頭を撫でれば、気持ちがいいのか小さく息を吐いた
だがまだこちらを向こうともしないし、何かを喋る気配もない
どうやら、もっと甘やかさないと機嫌を直してもらえないらしい
「なぁ、カズ…」
しおらしい声を作って、カズの背後に座って腕を回してギュッと抱きしめる
カズは別に暴れるでも手を振り払うでもなくもぞもぞと動き、やがて居心地のいい場所を見つけたのか俺の胸に背を預けてきた
そのままで頬にキスをすれば、今までコチラを見ようともしなかったカズの目が、チラリと俺のほうへと向けられる
「…俺、楽しみにしてたんだからな」
ようやく俺と会話する気になったらしいカズは唇を尖らせ、拗ねたような、けれどその中に甘えを含んだ目でちらちらと俺を見る
もっともっとかまえ、俺を甘やかせと訴えてくるその蒼い瞳に苦笑が漏れそうになるが、どうにかそれを引っ込めて、反省してますという顔と声を作る
「あぁ、俺も楽しみにしてた」
「夕日沈んでも来なかったくせに」
「悪かった、つい集中しすぎてな」
「別に気使わなくていいよ、バカスネーク」
「使ってないさ。そうだ、明日俺と海に夕日を見に行ってくれるか?」
「何それ?埋め合わせのつもりかよ」
「お前と夕日が見たかったんだ。ダメか?」
少し大げさなほど眉を下げて、不安げな声でそう尋ねれば
カズは暫く、何かを考えているフリをして
「…まぁ、いいけど」
ほんのりと頬を染めて、俺からふいっと視線を外してぶっきらぼうにそう返事をした
その表情が酷く可愛らしく見えて、思わず浮かびそうになる笑みをどうにか押さえ込む
今笑えば、せっかく良くなったカズの機嫌がまた下がりかねない
「本当にすまなかった」
「もういいよ。その代わり明日は忘れるなよ、忘れたら怒るからな」
「肝に銘じておく」
すっかり機嫌を直したカズは、今度は甘えるように体を擦り寄せてくる
その体を促されるままにぎゅうっと抱きしめて、出来るならもう少しわかりやすく甘えてくれれば助かるんだがと少しだけ思ったが
まぁ、多少面倒なくらいが可愛いからいいかと、ほんのりと染まった横顔を眺めて思い直した
甘えたカズ月間に勝手に便乗してみた一品
あくまで勝手にです、物凄く勝手にです(しつこい)
要するに皆様の甘えたカズが素敵過ぎて萌えた副産物
書いておいてなんだが、このカズめんどくせぇ!乙女か貴様!!
まぁスネークはそこが可愛いとか思ってる
甘えたカズというよりはただのバカップルな話です
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