マングースの幸せな日常・4



「ねぇ〜、マングースお願いっ!一生のお願い!!」

「ダメです!というか副指令の一生何回あるんですか?」

「ねぇお願い〜」

「甘えてもダメです」

さっきから甘えたような声でおねだりを繰り返す副指令に、俺は今ちょっとだけうんざりしている
背中に張り付く副指令を引っぺがそうと、肩の辺りでグリグリと頭を擦り付けてくる副指令の頬を軽く押す
けれど、副指令はこれくらいじゃ堪えてくれないようで、逆にぎゅーっとしがみ付いてきた
もうどうしよう…と軽く困っていると

「…お前ら、何してる?」

訓練を終えたのか、ホーネットを引き連れて部屋に入ってきたボスが、訝しげに俺達を見比べてきた

「あ、ボス!」

慌てて立ち上がろうとしたけど、背中に副指令を貼り付けている状態じゃ、あまり力のない俺は立ち上がることなんかできない
なので一応敬礼の形を取ると、ボスはそのままで言いと軽く手を振ってくれ

「…で、お前ら何してる?こんな場所で」

そう、どこか機嫌悪そうに尋ねてきた
実は、ここは休憩室だったりする
人前なら了承してくれやすいだろうと踏んでいるらしい副指令は、何かおねだりするときは大抵ここで絡んでくる
正直、迷惑だからやめて欲しいんだけど…

「ボス、助けてください…副指令が…」

「俺何にもしてないじゃん」

「してるじゃないですか…」

困り果てた俺がボスにそう訴えると、副指令は失礼な、とでも言いたげに俺とボスを交互に見る
その間も、副指令は背中に張り付きっぱなしだ
離したら、俺が逃げるとでも思っているんだろう
まぁ、離されたら逃げるけどさ

「…質問を変えよう。カズ、お前なんでマングースの背中に張り付いている?」

俺達のやり取りに業を煮やしたのか、ボスは大きなため息を吐いてガシガシと頭を掻いた
…というか、さっきより声のトーンが低い気がするし、眉間に皺がよっている気がする
ついでに、背後のホーネットが胃の辺りを押さえている
あいつ、また胃が痛いのかな?
後で胃薬でも持って行ってやろうかな?

「あ、そうだボス、マングースが酷いんだ」

そんなことを考えていると、ターゲットを変えたらしい副指令が、ボスに甘えるようにそう訴える
どうしてそれが2人きりとかじゃできないんだろう、この人は
それが出来たら、ボスだって副指令の魅力に気付くと思うんだけど

「酷いのは副指令じゃないですか」

「いーや、お前だ。俺の稼ぎを俺がどうしようと俺の勝手だろ?」

「そういうわけにはいきません、大体副指令は…」

「…お前ら、俺の質問に答える気があるか?」

ついついそれかけた話題を、ボスの低い声が引き戻す
その声が、あからさまにイラついたものへと変化している
ボス、もしかして何かイライラしてる?
…休憩室が禁煙だからかな?
ボスはかなりのヘビースモーカーで、いつも葉巻を咥えている
吸いたい時に煙草が吸えないのは拷問に等しい…と、仲のいい奴が言っていたし

「マングースが新しいグラサンと下着買ってくれない」

さすがに副指令もボスがイライラしているのに気が付いたのか、俺に文句を言うのをやめて
拗ねたように唇を尖らせ、ボスにそう訴えた

副指令は基本的にかなりの倹約家だ
それによってこのMSFはうまく回っているし、その手腕は凄まじいものがある
だが同時に、本当に欲しいものには、金に糸目をつけない傾向がある
その例が、マザーベースの風呂関係だったりする
この間できたサウナも、電気代が安く上がるだのなんだの理由をつけてボスを納得させていたが
一番の理由は、自分が欲しかったからだというのを知っている
そして、副指令はいい意味でも悪い意味でも賢い
自分へのご褒美と称して、こっそりと私物を権限を使って仕入れることがちょこちょこある
そのどれもが、結構いいお値段のものばかりだ
オマケに、それが俺やボス以外にばれていないから余計にタチが悪い
俺が管理してないと、いつの間にか公費で落としていることもある

「ダメです。今月いくら使ったと思ってるんですか?」

副指令が過剰に物を欲しがるときは、ストレスとか溜まってることが多いから、これくらい買ってあげてもいいかな?と甘やかしたが最後
欲求がだんだんエスカレートしていくのは目に見えている
交渉で副指令がよく使う、常套手段だ

「いいじゃんか、ほら頑張った自分へのご褒美だって!」

「その後褒美も今月何度目ですか?先週そう言って、たっかいブランデー仕入れてましたよね?皆に内緒で」

「今週忙しかっただろ?今週のご褒美だって!」

「先週、今月コレっきりだからって言ってませんでした?」

「先週は先週、今週は今週」

「どこの駄々っ子ですか…」

呆れてため息をつくと、副指令がねぇ〜、と猫なで声を上げる
多分、ボスがいるから俺が早めに折れると踏んだのかもしれない
けど、ここで甘やかすときっと癖になるから、心を鬼にして副指令の肩を押して引き剥がそうとする
けど、副指令もよほど新しいものが欲しいのか、逆にがっしりとしがみ付いてくる

「なぁ頼むよマングース〜。愛してる、色男!」

「はいはい、俺も愛してますけど、ダメです」

「お願い!新しいの仕入れたら一番にお前に見せてやるし、何なら俺と同じの買ってやるから」

「いりませんよ、副指令の選ぶ下着ド派手だし…いい加減諦めてください」

「けーちー」

「ケチでいいです、諦めてください」

「やーだー」

普段ならこれくらいぴしゃりと言えば諦めるけど、今日の副指令はイヤに諦めが悪い
ボスの前だし、副指令も早めに諦めてくれないかとちょっとだけ思ったが、副指令は折れる気は全くないらしい

「…俺が買ってやる」

さてどう言って諦めさせようかと考えていると、不意にボスの低い声が部屋に響いた
その声に、副指令と同時にボスの方へ向けば
ボスは、どうにも形容しがたい表情をしていた
ただ、一言だけ言えるのは…ものっすごく怖い
たとえるなら、副指令が以前言っていた日本のモンスター、鬼だ
副指令もさすがに怖かったのか、ビクッと体を震わせて背中に隠れてしがみ付いてきた
俺も出来るなら、副指令にしがみ付きたい…それくらい怖い

「ご、ごめんボス…怒ってる?」

副指令が、恐る恐る俺の肩から顔を出す
その顔を、ボスが射殺さんばかりの目で睨み付けている
その目に、副指令が早々に顔を引っ込めた
…俺を盾にするの、やめて欲しい…
ちらりとボスの表情を伺えば、今度はその目がこちらに向けられて、慌てて顔を伏せる

「怒っちゃいない…だがカズ、あまりマングースを困らせるな。それくらい俺が買ってやる」

正直よく意味はわからないが、どうやらボスは副指令をたしなめてくれているらしい
顔が怖いのは、公共の場で醜態を見せすぎたかもしれない
偶然今は俺達しかいないけど、ここは休憩室だ、いつ誰が来てもおかしくない
そんな場所で、これだけ騒いだら迷惑以外の何ものでもない

「すみませんボス。ここ休憩室なのに、騒いで…」

「俺も、ごめん…しばらく我慢する…」

副指令もそのことに気付いたのか、またちょこんと顔を出して反省したような声でそう言った
まぁ、ボスは怖いけど…諦めてくれたならよかった
これに懲りて、副指令のおねだりが減ってくれたら万々歳だ
そう思ったのに、何故かその言葉を聞いたボスは

「遠慮はいらない、俺が買ってやる」

眉間に盛大に皺を寄せたまま、低い声でそう言った

「え…だって、悪いし…」

「それくらいの金はある、そんなに欲しいんならサングラスと下着くらい買ってやる」

「で、でも…」

「買ってやるといったら買ってやる」

「い、いいって…来月マングースに買ってもら」

「俺が、買ってやる」

そのままで、よくわからない押し問答が始まった
俺を、盾にしたままで

「だ、だからいいってば…」

「俺が買ってやると言ってるんだ、買ってやる」

「あ、あの…」

「マングース、お前は黙っていろ…それくらい、俺が買ってやる」

その何だかよくわからない押し問答が終わったのは、ボスの気迫に涙目になった副指令がそれじゃあと頷き
俺の胃が、穴が空きそうなほど痛み出した頃だった



















色々と迷走感MAX!
マングースに甘えておねだりするカズに、イラッと来るスネークが書きたかったんです
スネークから見たら、いちゃいちゃいちゃいちゃしてるようにしか見えない2人を書いてみたら、何て言うかやりすぎました(土下座)
一日遅れの嫉妬の日にも重ねようと試みましたが、失敗しています

ちなみに、カズの趣味のものの購入権はマングースが握ってます
以前バカ高い私物を仕入れて、しこたま怒られたのが原因です

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