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もう3時間も前から電話している。なんでも、年明けの瞬間は混み合ってサーバーが落ちるから前もって繋いでおくべきなんだとか。そういうことって近年改善されてきてるんじゃないのか?と思いながらも別に悪い気はしないからお互い切らずにいるわけなんだけど。年越しだからと言って話題があるわけでもなく特に変わったこともなくいつも通り3日もすれば忘れそうなことばかり永遠話している。こんなことで3時間潰れてしまうのだから大したものだと自分でも思ったりしながら、少しだけ電話料金のことを心配したりして。
そういえば俺たちは一応付き合ってはいるものの恋人らしいことを殆ど、というか全然したことがない。別にやましい意味ではないけど、何というか こうやってただ話している内容も大半がサッカーのことで、やれ誰のフォームが綺麗だとかどの技がかっこいいだとか。そりゃもっと参考になるような話もしているけど、話が子供っぽいとか選手っぽいとかこの場合そういうことではなくて。
選手とマネージャーという関係ではあるが曲がりなりにも恋人同士なのだから少しぐらいそれっぽくてもいいのではないかとも思うわけで。
まぁ、そうやって今までは何も思いつかずに所詮俺なんて付き合ってもこんなもんだな、と自分でも彼氏力のなさに苦笑していたのだが、折角年越しだしなんて理由を付けて俺はふと思いついたことを実行に移してみた。家から彼女の家までは15分程度。12:45ちょっと過ぎぐらいに家を出てみる。その間も電話は続いているから「外出るの?」と聞かれて自販機に行くんだ、とテキトーに言っておいた。自販機なんて行かなくても飲み物くらい冷蔵庫にあるのだけど。
やっぱりサッカーの話をしながら気づけばあと5分で年明け、という時間まで過ぎてしまった。彷徨いまくっていた話題は結局部活の話になって、どうやらこのまま部のメンバーの話をしたまま年を越すのかと思いながら笑っていたら突然電話が途切れた。俺は彼女の家の通りを歩いている途中で、切れた電話の画面を少し驚きながら確認すると11:59の表示。なんの為の電話だったのかと軽く笑いながら彼女の家に到着する寸前。


「え、風丸」


玄関の扉が勝手に開いたと思ったらそこには彼女の姿。コートにマフラーをして焦って飛び出してきた彼女を見ながら思わず声を無くしていると、彼女も驚いたように目を丸くしていた。ようやく状況を理解した彼女は「電話切れたから、もう直接会いに行こうと思って」と恥ずかしそうに少し笑いながら誤魔化して、握りしめたケータイに視線を落とす。本当は家族で過ごすんだと思っていたけど、なんだかいてもたってもいられなくなってしまった、とか。不覚にもちょっと可愛いから、いやだいぶ可愛いとか思ったりして。


「電話切れる前から、直接会いに行こうと思って。」


自分でもだいぶ恥ずかしいことを言ったな、と思いながらケータイの画面を確認すると表示は0:01でカウントダウンもしないままいつの間にか年を越してしまったことに気づく。まぁ、年越しの瞬間は分からないが年越しのためにお互い会いに行こうなんて俺たちにしては十分それらしいと思いながら勝手に満足していると、彼女も自分のケータイで年が明けたことに気づく。


「あけましておめでとうございます」


少し肩を落とす彼女にそう言いながら途中の自販機で買って少しぬるくなったおしるこを頬に当ててやると、彼女はあけましておめでとうございます、とぽつりと言って笑った。












(恋人らしくなってもいいかなと)
























140103
リア充なんてぱっぱやー(実家で年越し)
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