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親愛なる風丸様へ。
突然だけど、覚えてるでしょうか、あたし達がまだ付き合っていた頃の事。今じゃすっかり友達に戻っちゃって付き合ってた事なんかなかったみたいになってるけど、あたしは未だに毎日思い出します。何気ない会話の一部とか、電話した内容とかその時に思い浮かべた貴方の顔とか、会えない時あたしがいつ貴方を思い浮かべて何を考えてたのかとか、初めてキスした時の事も、俺のだって言って抱きしめてくれた事も。
あの時、首に軽くキスマークつけてきて、そんな経験ないもんだから本トにビックリしたんだよ。漫画みたいに蚊に刺されたとでも言い訳すればいいのかと思ったけど、軽くだからすぐ消えるよって。なんか、今思えば切なくなります。
物覚えが悪くてすぐ忘れちゃうあたしがなんでこんなに貴方の事だけは覚えてるんだろうって思って考えたんだけど、昔から好きなものの事だけは忘れないんだったよ。好きな漫画とかテレビとかそういうものの事だけはよく覚えてる。同じレベルかよって言うかもしれないけど、あたしにとっては凄い事なんだってば。
さっきも、お風呂上りに髪乾かしながらふと君の髪はさらさらで綺麗だったな、なんて思い出して苦笑した所です。
女々しいと思われるかもしれません。あたしも自分でそう思うから。でも、君も知っている通り、あたしは人生に1人しか付き合わないし、その人と一生幸せになるって決めてるから。君は優しいから、自分の事なんか忘れて違う人と幸せになればいいって言いそうだけど、そんな事まで想像ついておいてあたしはまだ信念を変えられないでいます。あたしは貴方に告白された時に決めたから、「あ、この人とずっと一緒に居よう」って。
あの時、貴方が別れを告げた時。あたしに言ってくれたことが今でも引っかかっています。


「お前は俺の出逢った中で誰よりも素敵な女の子だ、今後もお前以上に好きになれる人なんか出来ないだろう。だから俺はこの恋愛で終わりにするよ。後の人生、恋愛はしない」


本当に愛されてるのか不安になってしまったと、貴方は教えてくれました。その時、あたしの中で、やっぱり、と思ってしまったんです。貴方は沢山伝えてくれるのに、あたしは口にしないから、やっぱり貴方を苦しめていた。あたしの所為で。
あたしの中で貴方は最高の恋人でした。誰よりも大切だと思えました。でもあたしには経験が無いから分からなかったんです。これが本当に「好き」という感情なのか、貴方の気持ちと同じ「愛してる」なのか。だから、なんて言い訳に過ぎないけどあたしは曖昧に想いを伝えたくなかった。好きとか、愛してるとか、そういう大切な気持ちを曖昧じゃなく心から言いたかった。そんなことを言いながら本当はただ単に恥ずかしかっただけなのかもしれません。そんな恥ずかしさに感けて伝えないなんて不公平だと思って、何度か好きって言ってみたけど、はっきり言うとあれが精一杯でした。好きって2文字だけなのに伝えられない、とかよくある歌の歌詞だけど、本トにそうだったなぁと自分でも笑ってしまいそう。好きで精一杯のあたしが愛してるだなんて、言えるはずがなかったんです。別れた今となってはこんなに思っているのに何で言えなかったんだろうと後悔してばかりなのに。
涙を堪えている貴方の前で泣くわけにはいかない。だからせめて最後にと、溢れそうになった言葉を零してしまおうかと思いました。でも沢山悩んで出した貴方の決意を無駄にしたくない、そんな綺麗事を言いながら、実のところ最後まで勇気が出ないだけでした。


「だから、友達に戻ろう」


そうやって貴方を苦しめて、隣から側に変わってからもう1年が経とうとしています。貴方は吹っ切れてもう何とも思って居ないかもしれないけど、あたしはこの1年ずっと信念が曲げられずに貴方のことばかりでした。
あたしのことを想って、あたしが大切だから別れを告げた貴方。あたしの為に全てを終わらせようとした貴方。でもごめんなさい、あたしは今更貴方のことをただの友達だなんて吹っ切れなかったよ。

親愛なる風丸様へ。貴方の気持ちを無下にするような1年を過ごしてきたあたしを許してほしい。貴方を苦しめたあの日々を許してほしい。だからあたしは、1年前に別れを告げた今日、貴方が全ての恋を終わらせた今日、今度はあたしから貴方にちゃんと想いを伝えないといけないと思いました。今度こそ、2人で幸せになる為に。


「ねぇ 風丸、」














(また2人で、はじめませんか)

























130811
バカな自分とはおさらばしたいものですね。
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