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羽が生えたように見えた。一瞬、彼女の背中に。そんなことを口にしたら笑われるだろうと思うけど、本当にそう見えたのだ。最早白かったか黒かったかさえも分からない程度に一瞬で驚いたけど、確かに羽が見えたのだ。もしかしたら違うかもしれないけど、それなら他に何と呼べばいいんだろうか。今すぐ記憶を共有して誰かに詳しく聞いてみたいがそんなこと出来るはずもないし、今は彼女と俺の2人だけ。もし俺だけに見えたものじゃなかったとしても目撃者は俺以外居ない。ふと動揺して思考がぐちゃぐちゃになっていることに気づくが、それにしてもさっき見えたあの羽が気になって仕方なかった。


「どうしたの?」


視点を動かすのさえ忘れていた俺を不思議に思った彼女が疑問符を飛ばす。あ、いや、なんて誤魔化しにもならない言葉を発しながら、でも彼女の背中には何もないことを確認する。見間違い、なはずはない。何故か確信のある俺を他所に彼女は不審な俺に頬を膨らませて「だから何?」ともう一度、今度は半ば文句の様に言った。


「いや、お前の背中に羽が見えた」


気づいたら言っていた。案の定わけがわからなそうな顔をしている彼女。何言ってんのとでも言いたげにこちらを見ていたが、俺が忘れてくれ、と言うと何か思いついた様な感じで表情を変えた。一度俺から視線を外してふふ、とすこし笑って上を見上げる彼女。


「天使と悪魔、どっちだと思う?」


そんなことを言うものだから不意に俺は「勝利を運んでくれそうだから天使がいいな」なんて答えていた。それじゃ女神様だよ、と彼女は苦笑。ぶっちゃけ無意識だったけど、後から考えるとああ、確かに。なんて自分の言葉に納得したりして。「そっか、じゃあ神様にお願いしてみるね」とか笑いつつ言う彼女。


「あー、努力次第だってよ、神様が。」

「おまえ、そんな当たり前なこと言ってどうする」

「だって神様が」


そう言ったんだもん。
あ、まただ。羽、羽がある。彼女の背中にはやっぱり羽が見えた。相変わらずそれ自体は見えているのに白いのか黒いのか、実態があるのかないのかさえ確認出来ない。不思議。でも彼女が言うんだから、きっと天使の羽なんだろうな。
努力次第ね、ふーん。と、彼女の、もとい神様の言葉を振り返りながら、俺はいつの間にか消えた羽の面影を眺めていた。


「風丸ー?」

「あ、円堂」


何してんだ?と問われて集合時間を思い出す。すまない、と立ち上がり円堂の後を追おうとしながら、俺は彼女にも一緒に行こうと振り返る。「どうした?」と円堂。
あれ、居ない。そこには誰も居ないロッカールームが広がるだけだった。ああ、誰も居ないや、そりゃそうか。と、妙に納得しつつ俺は頭に残る誰かも分からない“天使の声”を思い出しながら部屋を出た。











(努力してみるからさ、天使さん)























130221
不思議系目指して撃沈
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