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あたしが死んだら海に来て


そんな物騒な事を彼女は言った。何で海?と聞いたら「人は海に還るんだよ」と笑った。彼女と海に行ったことはない。というか、行く暇もなかった。多忙な日々を必死にこなしていた俺。そしてそれを支えてくれた彼女。デートなんてよくあるカップルのような事はしていられなかったのだ。それっぽく出来たのはオレンジの帰り道でドキドキしながら手をつないでみるとか、そんな恥ずかしいくらいベタなのだけ。
彼女も普通の女の子だし、きっと少しくらいはそれっぽいことをしてみたかったとは思う。俺だってその気持ちをくんで、それなりに彼氏っぽくしてみたかった。1度くらい遊園地とか、それこそ海とか行って、遊んで、笑って。常にサッカーの事ばかり考えていた俺にとっては乏しい想像しか出来ないけど、それでも彼女と一緒に2人の思い出を作ってみたかった。でも、もう出来ない。
彼女が来いと行った海に来た。みんな気を利かせてくれて俺は部活を数日休み、久々の部活を終えた後、いつかのベタな夕日と同じようなオレンジの夕日を見ながら、本当は彼女と一緒に来るはずだった海を見ている。1人だ。俺らと同じような事を考えて海に来ているカップルが居るかもなんて少し考えたけど、ぶっちゃけ半分ド田舎みたいな町でそんなことを実行する奴らなんか居ないようだった。本当に1人。濃い橙に染まった海が波音を立てている。この音を聞くのはいつ振りだろう、なんて。本当は彼女と思い出を語り合う場面なんだろうけど、生憎俺には海にあまり思い出が無かった。


「あたしが死んだら海に来てね」

「来てって、行くんだろ?」

「いつか行けたらいいけど、一郎太は忙しいからなぁ」

「俺が忙しいってことは、お前も忙しいだろ」

「忙しくしてくれて何よりですよ?」


ハハ、と笑う彼女は切なげでも何でもなくて、ただ心の底から俺達の活躍を祈ってる感じで、マネージャーの鏡っていうか、多分彼女もサッカーが好きでそれしか考えてなかったんだと思う。しかもその上、これからもずっとサッカーのことばかり考えて行くんだと思ってた。俺も彼女も。まさかこんな形でお前の存在を再確認するなんて。
















(あの日みたいにこの手を繋いでよ)
























120316
やっと書いた久々でしかも今年初めての話が死ネタってどういうことなの

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