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「言ってみただけ、忘れて忘れて」


賢者の石を探し求めて旅を続けていたのももう数年前の話。彼等が故郷に戻って細々と暮らすみたいなちょっと前までは絶対に想像もしなかった生活を始めて慣れたであろう頃、あたしはふと彼らの住む町に向かった。旅路を共にしてきた彼は服装の所為なのか環境の所為なのか、少しだけ雰囲気を変えて現れた。雰囲気が変わったと言っても別に何もかも違うわけじゃなく、口調とか態度とかは相変わらずで大して意識してないながら相変わらずねと口にしていた。
迎えてくれるみんなはもう全員馴染みで、久しぶりと言えば元通りそれまでの関係が更新される。それからそれなりに近状を話したりして、お互い年取ったなとか年寄りみたいな事も言ったりして。なんだかんだ言っても結局あたし達の間には変わらず笑いあえる繋がりが存在してるのを確認した。
せっかくだからとそのまま一泊させてもらい、当たり前のように朝ごはんも昼ごはんもご馳走になって帰路につこうという頃、用があるらしく見送りにはウィンリィだけがついて来てくれた。何をというわけでもないのに駅までの道でも話は尽きず、記憶の中より少し大人びた彼女を見ながら懐かしさを噛み締める。


「ねぇ、」

「?」


恋人は居ないの?


持っていた荷物ががったがたになってあたしは二重の驚きにあたふたする。2人してそれを片付けながら苦笑のウィンリィ。昔あんたの旦那にフラれてそれから恋人なんて考えたことないなんて、まっさか本トに妻になってしまった彼女に言えるわけもなく、だからと言って気の利いた嘘もつけないあたしはただ口をつぐむことしか出来ない。
疑問符を浮かべる彼女にははは、と空笑いを返す。


「居ないのよ、作る気もないけど」

「そうなの?もったいない、可愛いのに」

「そういう問題じゃないのよ」


あいつは最初からあんただったのよ。
嫌味だとか憎いとかそういうことじゃない、ウィンリィはいい子だしエドワードはいい選択をしたと思うし、幼馴染だったわけだしその時点で結果は瞭然だったというだけで。あたしが勝手に好きになってそれにこだわってるだけ、新しいことを始められないだけ。それじゃいけないからここに来たのに 結果変わらず帰路につこうとしている。
電車に乗り込んで最後の会話を済ませようという頃、改札の方から声がする。ああなんだ、やることがあったんじゃないの?「全部終わらせて来たんだよ」わざわざこんなギリギリに来るなんてマメね。少し期待しちゃうよ、とは言えないけど。


「また来いよ」


おう、とだけ返すと扉が閉まる。手を振る姿を見て笑顔を作って振り返しながら、突然一人になった気がして荷物の重みを改めて感じた。昔はもっと大荷物を持って旅をしていたのに 旅を終えて自分が弱くなった気がした。車窓を流れるこの景色を次はいつ見れるのだろう、置いてこようと思った感情はまだ元の場所に残っているままで、次ここまで来る勇気を出すまでには時間がかかりそうだった。


「幸せにならないと許さないんだから」












(少しだけ心を零しながら電車に揺られる)























140602
某企画に提出しました。
エドワード夢なのにウィンリィのが出る罠
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