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昔から、自分が嫌いで嫌いで仕方なかった。パッとしない顔も、クラスでも目立たない性格も、遺伝で外ハネする似合わない髪も、女子にしてはほんの少し広い肩幅も、平均的な体型も、少し低めの声も。自分の嫌な所は誰でもあって、良いところより遥かに見つけやすくて、1度気になったらもう憎くて憎くて仕方なくなるものだ。少なくともあたしはそう。すぐに治せるわけでもない、というか一生直し様もないものばかり目につく。何よりも嫌なのは、自分じゃ自分のことが何も分からないという事。他者に頼ることでしか自分を判断出来ない。人間って、そういうものらしい。
わりと仲がいい友達との帰り道も途中で別れ、当たり前のようにそんな事を考えながら1人夕暮れの道を歩く。橋の上を進む途中、不意に河川敷が目に入った。


「…あ、」


サッカー部。人数が少ないから個人練習だろうか。最近力をつけてきたと噂だからメンバーを見れば何となく分かる。
数秒足を止めて眺めていると水色の長い髪が目についた。風丸一郎太。元々は陸上部のエースだったがサッカー部にスカウトされたとかで今はサッカーに専念しているらしい。全てや友人に聞いた話だが、何故そこまで個人の事情に詳しいのかは不明。


「…、」


最近友人に言われて気付いたことだが、あたしはよく彼の事を目で追っているらしい。彼のビジュアルが目立つからと言うのもあるかもしれないが、そんなのすぐに慣れるものだ。厭に勘が鋭くて深読みしがちの友人が言うには、これは“恋”なんだとか。恋なんてそんなものあたしはしたことがないからよく分からないし、友人を完全に信用した訳ではないが、毎日刷り込みのように言われ続けては気にならざるを得ないと思う。こういう流されやすいところも、あたしが自分の嫌いなところ。


(輝いてんなぁ、風丸君)


彼が一生懸命に走っているのを見ていると、この厭味にまみれた自分を一瞬だけ忘れられる気がする。こういうことが友人の言う“恋”で、“好き”という感覚なのかもしれないけど、そんなこと毎回どうでもよくなってしまう。彼を見ているときはただ、自分に悩んでいる自分を忘れたくなるのだ。
少し見てすぐ帰ろうと思っていたのに気付けば10分程経っていた。夢中に見ていた自分からハッと目が覚めて、誰が見ていたわけでもないのに瞬時に恥ずかしくなる。頬を叩いて強制的に自分を落ち着かせる。何故か制服のホコリまで掃って冷静になってからもう1度だけ彼を見ると、ドリンクを飲む姿さえ颯爽としていて思わず目を細めた。


「…、風丸」


無意識に彼の名前を呟く。すると彼の髪が一瞬揺れて、あろうことかこちらを見た。距離は離れているのに完全に目が合った。まさかあたしの声が届いたとは思えないが、何となく気まずくなって思わず自分で自分の口を塞いだ。
彼は目を丸くするあたしを見てからハハハと小さく笑うと、優しく目を細めた。その顔が綺麗で無意識に顔を隠していた手を下ろすあたし。それを確認すると彼は安心したように去り際に手を振って練習に戻っていった。
それはほんの10秒程度だっただろうが、あたしには永遠に感じられて、もう何時間と彼と目が合っていた感覚で、半分放心状態で帰り道を再び進み出す。毎日のように自分を嫌悪しつつ歩いた道も、彼の事でそれさえもままならない。再び赤くなりはじめた頬に触れ、彼の顔を思い浮かべた時、あたしは初めて自分の事が分かった気がした。
















(その時だけ、自分を少し好きでいられるから)

























110802
着 地 点 が 何 処 だ か 分 か ら な い 。
ほんのり風丸さんが書きたかった訳で。最近書いてなかったからとか言い訳な訳で。ごめんなさい\(^O^)/
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