過去ログ | ナノ
「俺、他に好きなヤツ出来たから」
「え、」
「だから、別れよう」
目を見開く彼女。予想以上に驚いてる、これは騙し甲斐があるな、なんて思ってる事は今は秘密だ。どうやら彼女は今日が4月1日のエイプリルフールだと気付いていないようだった。
それにしてもベタな嘘だったかな、しかも言い過ぎだったんじゃないのか?ちょっとした不安の中、まんまと騙されてショックを受けている彼女に内心可愛いな、なんて思いながらも俺は彼女の返事を待った。彼女割とひねくれ者だから、こんなに純粋に驚いた顔なんてなかなか見ない。それが新鮮で、俺はいつもより浮かれていた。
「………佐久間」
「?」
「それ、本トなの?」
「ああ、本…―――」
質問に振り向けば既に号泣寸前の彼女の姿。今までの彼女はそんな事ぐらいでへこまないと思っていたのに、俺の予想違いだったのかもしれない。どうしようもなく申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら俺は彼女に弁解しようと焦りながらもどかしい気持ちを抑える為に頭をかいた。
「……あー…だから、今のは嘘で」
「えっ嘘なの」
「今日エイプリルフールだろ、だから嘘ついてみたんだよ」
「…………エイプリル?」
疑問符を浮かべる彼女。一瞬思考が止まる。………まさかとは思うが、もしかして―――
「お前…エイプリルフールって、知ってる?」
「…………知らない」
「……………」
大失敗である。エイプリルフールを知っているものだと思い込んでいたため、まさか彼女が知らないなんて思いもしなかった。バツが悪すぎて仕方ない。
「何それ、じゃあ嘘ついてもいい日なの」
「まぁ、そういう事だ」
「佐久間のバーカ、心配して損した」
「ごめん…」
「なんかお詫びして欲しいなー」
「……………え?」
ニタリと笑ったその顔は勝ち誇ったようで、騙したのは俺なのに敗北感を覚える。しかし、エイプリルフールを知らない彼女に嘘をついてしまったのは事実。仕方なく彼女の要望を聞き入れようと声を待つ。小さく笑ったその表情に少しだけ腹が立った。
「佐久間からキス、してよ」
思わず呆然としてしまう。そんな事言われなくても、いつもキスをするのは俺の方からなのに。改めて“キスして”なんて言われると羞恥心が駆り立てられる。今更だけど、物凄く恥ずかしい。真っ直ぐにこちらを見る名前を見て一瞬ドキン、と胸が高鳴った。
意を決して彼女を見れば恥じらいながら小さく笑っている。ゆっくりと顔が近付いて、あと1センチ。
瞬間、触れた感触に違和感を覚えて目を開けば彼女の人差し指が柔らかく俺の唇に触れていて、さっきより口角をあげてにやけを止めるようにして笑いを堪えていた。
「ひっかかったー」
「……お前っ」
後悔と羞恥がごちゃまぜになって顔を隠せば名前が隣で豪快に笑い出す。畜生、騙された。そう思いながら彼女を憎らしげに見ても完全に勝った気でいる彼女の前にはただのひがみにしか見えないだろう。イベントに煩い彼女がエイプリルフールを知らない訳ないのにちょっと真面目に心配した俺がバカだった。
ひとしきり笑って落ち着くと俺を見ながら困ったように眉を下げる名前。お互い騙し合いだったんだ。どっちが悪い訳でもいい訳でもない。何しろ今日はエイプリルフール、お互いに謝る気は無いらしかった。それにしても本気で泣くかと思ったぐらいだ、彼女の演技には騙された。女優にでもなればいいんじゃないかなんて安易な考えをしながら、不意に合った視線に笑いが込み上げてきた。
「…ハッピーエイプリル、佐久間」
「………悔しいけど、完敗だ」
happy APRIL!
(君以外が1番だなんて嘘でも言えない)
100413
久々更新です(´д`;)エイプリルフールとかとっくの昔に終わった件についてwwwスランプ怖い