過去ログ | ナノ
いきなりふわり、と背後に気配を感じる。さっきまで感じなかった違和感、だってあたし今まで1人だったんだから。
帰宅途中の1本道、夕日さえも沈んでいて、今はただ淡くオレンジの残った空が広がるだけだった。
「苗字、名前ちゃんだよね」
「――…アンタは…」
「基山ヒロト、って言っても遅いかな。もう知ってるんでしょ?」
「……グラン…」
エイリア学園マスターランクチーム“ザ・ジェネシス”キャプテン、グラン。その本人が立っていた。“基山ヒロト”の格好で。彼は口角を上げて不敵に笑っている。ゆっくりと歩みを進めて来る彼の足を見て、あたしは思わず足が竦んだ。
「怖がらないでよ、何もしないさ」
「なら近付かないで」
「酷いなぁ、何もしないって言ってるのに」
「来ないで!」
あたしの言葉なんて完全無視で歩み寄ってくる彼。本能が“逃げろ”と警報を鳴らしている。咄嗟に反対方向に走り出そうと足を踏み出せば、目の前には既に彼の顔があった。いつの間に、そう思う間も無く腕を掴まれて逃げ場が無くなる。ギリ、と睨んでも逆効果のようで、彼はまだあの微笑みを浮かべたままあたしを見ていた。
「放して」
「放したら君、逃げるんだろ?」
「当たり前」
「何で逃げるの、何もしないって言ったのに」
「嘘ッ、放してったら」
「君が逃げないって約束してくれたら放してあげるよ」
「分かったから、放してよ」
彼の手が触れた所を拭き取るように摩れば、少しだけ苦笑を零すグラン。随分とあっさり解放してくれたものだ、もしかしたら放した瞬間にあたしが逃げるかもしれなかったのに。不意に冷静に考えている自分に気付く。一歩だけ彼と距離を置くと、彼は何事も無かったようにまた余裕そうな笑みを浮かべた。
「逃げないの?」
「アンタこそ掴んでなくていいの?」
「それ程君を信頼してるって事だよ」
「…何それ」
敵であるあたしを信頼している?まず今彼を微塵も信用していないあたしにとっては理解出来ない感覚だった。
「ねぇ、名前」
「気安く呼ばないで」
「じゃあ苗字、僕と一緒に来て」
「―――…何処に」
「勿論、エイリア学園にだよ」
「嫌。誰がアンタなんかと…――」
拒否しようとした瞬間に、先程掴まれた所をさっきよりも強く握られる。そのまま腕を引かれ、あたしはバランスを崩して彼の方に倒れ込んでしまった。掴んでいる反対の手が滑らかに動いたかと思うと、そのまま顎を持ち上げられる。驚いて目を見開けば、彼の嫌に整った顔がすぐそこで変わらず微笑んでいた。
「君に拒否権は無い。」
低く告げられた言葉に体が動かなくなる。確かに笑っているのに、力で圧倒されるような感覚。さっきとは裏腹に、あたしの本能は“逆らってはいけない”と言っていた。全く、都合のいいもんだ。自分でもそう思った。
「何であたしなの?雷門の情報ならもっと違う人からでも聞き出せるでしょ」
「なんでだろうね、君が好きだから。じゃないかな」
「敵なのに?」
「いいや」
近かった顔が完全に触れれば、厭らしいリップ音だけがあたしの耳に届く。抵抗しようとする手は彼に押さえられていて動かない。ゆっくりと唇が離れて彼の顔にピントが合えば、彼はまた満足そうに笑いながら呟いた。
「君はもう、僕のものさ」
一口含めば、もう既に
(言葉を交わした瞬間に、もう私<僕>は君の毒牙にかかっていたんだ。)
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初グラン夢です。ビチビチです。変態大好き!3トップは押しが強い方が好きです。ラブエロス^p^