過去ログ | ナノ






「ごめん。俺、好きなヤツいるから」


そう言って告白を断ったのは一体何度目だろう。多い訳でもないが、もうそんな事など覚えていても意味を成さないことくらい分かりきっている。
走り去っていった少女の背を1人見つめて、完全に彼女の影が消えるのと同時に、源田はオレンジ掛かった空を見上げながら苦笑した。


「また立ち聞きか?相変わらず趣味悪いな、佐久間」

「なんだ、バレてたのか」


誰に話しかけるわけでもなく言った独り言に反応するようにして、するりと自然に現れて呆れたような表情を浮かべながら佐久間は呟いた。


「何、ちょっと通り掛かっただけだ」

「屋上を通り掛かるって、どんな用があったんだが甚だ疑問だな」


冗談めいた会話をしながら佐久間はゆっくりと源田に近付くと、少し距離を置いてフェンスに寄り掛かる。それに習うようにして、源田もまたフェンスに寄り掛かるが、敢えて佐久間の方は見ずにしながら、床2、3歩分前のタイルに目をやっていた。


「また断ったのか」

「別に。他に好きなヤツ居るのに別のヤツと付き合ったって意味ないだろ」

「…お前さぁ」


言葉にはしないものの、あからさまにつかれた溜息には“呆れ”が含まれていた。さっき源田に告白してきた女子は、この学校でも美少女と評判だった。普通そんな人に告白されたら嫌でも喜ぶ所だろう。佐久間が空を見ていた視線を隣に移せば、後悔したような表情もなく、ただ呆然と物思いにふける源田が映る。そしてまた、さっきより小さくなった溜息を吐き出した。


「もうそろそろ、いいんじゃないのか」

「何が」

「名前。いつまで引きずってるつもりだ?」

「引きずってるとかじゃねぇよ」

「じゃあ何なんだよ」


不機嫌そうに声を低くした佐久間に、特に反応を示すわけでもなく、源田はただ佐久間の言葉に耳を傾けている。一向に視線を合わせようとしない両者。佐久間は様子の変わらない源田をちらりと見てから大きくため息をついた。


「もう3年も前の事だろ。いい加減忘れろよ」

「忘れる?バカかお前」


そこで初めて源田に表情が戻る。バカにしたように佐久間を見ながら、源田は苦笑してみせた。目を伏せる佐久間。体重のかかったフェンスがカチャリ、と音を立てるが、佐久間は構わずに寄り掛かって源田の様子を伺っていた。


「3年間、俺は名前を忘れた事なんてねぇし、忘れる気もない。名前以外俺は認めない」

「……見上げた愛情だな」


恥ずかしげもなく言い放った源田に対し、佐久間は無感情を装いつつも憎々しげに表情を歪めた。



「これは俺の使命なんだよ」



呟かれた言葉に佐久間は目を見開いた。一瞬、風が吹いたように空気が動いたかと思うと、佐久間は源田の襟に掴みかかっていた。鬼のような形相で源田を睨みつける佐久間。完全に無表情を決め込む源田に、佐久間の怒りは最高潮に達した。


「お前は!それで名前を護ったつもりか!?そんな事で名前が幸せだとでも思ってるのか!?勘違いも甚だしいな!」


声を荒げる佐久間。自分より少し大柄な源田にも怯むことなく、ただ怒りをぶつける。


「確かにお前と名前は両想いだったかもしれないが、今お前が名前の影ばかり追っていてもアイツの負担にしかならないんだよ!」


襟を掴む手は尚も力を増し、源田の制服に無数の皺を残す。


「名前は死んだ!もう3年も前の話だろ!?お前がアイツをこっちに引き止めてどうするんだ!!」


ひとしきり叫んだ佐久間は、息を切らせながら俯いた。するり、と手から力が抜けてだらりと落ちるように下げられた佐久間の腕。源田はなにも言わずままその姿を見ていた。


「俺だって…アイツの事好きだったのによ…」


ポツリ、と消え入りそうな声で呟く佐久間。その表情はさっきとは裏腹に悲しみでいっぱいだった。そんな佐久間を見ながら、源田はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。


「…すまん、俺帰るわ」

「…」

「………じゃあな」


力無く挨拶をして階段を降りていく佐久間の姿を無言で見送りながら、源田は俯いたように先ほど捕まれた襟を直していた。階段に続く扉がカチャリと音を立てて閉まると、一瞬手を止めてそちらを見た。
空がオレンジ色に染まっている。手を下ろして虚空を見つめた源田の表情は、ただどこかに愛しい彼女の姿を見るように悲しげで、限りなく無表情だった。




「忘れられるなら、もうとっくに忘れてるんだよ…」
















(使命と思い込まない限り、俺は苦しくて死んでしまうから)

























100525
やっと出来た…ずっと放置してた…
ぶっちゃけもうこれ源田夢なのか佐久間夢なのかわかんねぇけど(´д`;)DRRブームぱねぇ怖い

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