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「あたしが死んだらどうする?」


たまに彼女はこう言って俺に問ってくる。いつもなら明るく笑って聞いてくるのに、今日だけは物静かで、少し違和感を覚えた。いつもなら雰囲気に合わせてかわす質問だが、今日だけはそうもいかないらしい。心配になって隣に座る彼女を見るが、周りが暗くて表情が読み取れなかった。


「ねぇ、源田」

「………」

「なんだ、今日も答えてくれないの?」


(…なんだ、名前は気付いてたんだ。俺がその質問から逃げている事を)


クスクスと笑う彼女。確かに隣にいるのに、その存在はずっと遠くにいるような気がして不意に恐怖を覚える。ピタリと笑うのを止めたかと思うと、また静寂が訪れた。隣を見れば空を見たままの彼女が確かに居て、何故か安心と不安が同時に押し寄せた。


「どうしたんだよ、名前」

「……なんでもない」

「なんでもなくないだろ。なんでそんな泣きそうなんだよ」

「……だって…」


そう呟く彼女の顔は既に涙声。隣で名前が泣いているというのに、何故か俺は変に冷静で安心していた。
嗚呼、いつもの名前だ。そう感じて不意に笑みが零れる。俺はそれを隠すようにして彼女を抱きしめていた。


「なんか、源田と離れちゃうんじゃないかって…思って、」

「どこから出てきたんだそんな発想」


軽く笑ってやればだって、と繰り返す彼女にまた自然と口角が上がる。どうしようもなく強がりな彼女の事だ、ひょんな事で不安になったのをずっと抱えていたに違いない。背中に回された手に力が篭って彼女が感じた不安感の重さが分かる。彼女の辛さを気付いてやれなかった自分にも腹が立ったが、今は彼女が愛おしくて仕方なかった。


「俺は、何処にも行かないよ」

「…………そっか」


不意に彼女の手から力が抜ける。我に返ったように彼女を見ると、涙の後を残した目元が笑ってこちらを見ていた。


「源田、あたしが死んでも」

「死なない!お前は死なない!だから」

「あたしが死んでも、貴方だけは」

「俺はお前とずっと一緒だ!だからそれ以上言うな!」


一気に現実に引き戻された感覚だった。するりと腕を抜けていく彼女の手を掴む事さえ叶わず、俺はまだ感覚のある彼女の体を強く抱きしめた。苦笑する彼女。今はただ名前を離したくなくて必死だった。


「長生きしてね、あたしの分まで」

「……名前、」


「…………愛してるよ、いつまでも」



最期の彼女の微笑みは夜空に透けて、今までに見たことがないくらい綺麗だった。完全に無くなった彼女の感覚を探しても、もうそこには居ない。嗚呼、名前、俺は最後までお前に縋り付いて、全く格好のつかない男のまま終わってしまった。お前はこんな俺の見送りで天国に行けるだろうか?
彼女が居ない喪失感が胸を重くする。それでも彼女に言われた事を守る為に、きっと名前は今俺が悲しんだって喜ばないだろうと、俺は何もなくなった自らの手を見ながら必死に笑う努力をした。


「……おかしいな、さっきまで笑えてたのに」


笑おうと必死になればなるほど無表情に近付く。口角をあげようとすればする程、手には涙が滴り落ちる。どうしようもなく彼女が恋しくて、それでも彼女の為に笑いたくて、俺は夜空を見上げながら何度も何度も心の中で彼女の名前を呟いた。
















(君が死んだら流れ星に願おう 僕の元に戻ってくる事を この心が砕けてしまう程に)

























100310
最初はヒロイン死ぬ予定無かったです^^本トは源田が死ぬところだった←
でもこの方がいいかなって。弱い源田が好き。

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テーマ「人外ファンタジー」
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