過去ログ | ナノ
「名前ー!」
これで何度目だろう。俺は数え切れないほど彼女の名前を叫んでいた。容赦なく降ってくる雨の中を強くなってきた風を掻き分けるように傘を持ちながら俺は名前を探してさ迷っていた。
「名前ー!」
(一体何処に行ったんだ…)
もう探し始めてから30分は経とうとしている。始めは小雨だった雨も今はこのザマだ。雨宿りでもしていればいいのだが、生憎彼女はそんな事をしたりするはずもなかった。
(随分必死だったな…探し物なら今度にすりゃいいのに…)
俺の家に来た瞬間に「落とし物してきた」と、荷物を置いたまま飛び出して行った名前。その所為でケータイもなにもかも、連絡手段は持ち合わせていない。最初はすぐ帰ってくるものだと思っていたのになかなか帰ってくる様子もなく俺は1人家で待ちぼうけを食らっていたが、流石に痺れを切らして外を見れば雨がちらほら降り出していた。何も持ち合わせのない彼女に傘を届ける為に外に出た所、この有様だ。
何処を探しても彼女は居ない。辿りついたのは学校の前だった。淡い期待を込めて校門から入って見ると、グラウンドの真ん中でずぶ濡れになって座っている彼女がいた。
「名前!」
「…………げんだぁ」
思わず叫ぶと名前を力無く返される。呆然と見返してくる彼女の足元は泥だらけで、服もあちらこちら汚れてしまっていた。さしていた傘で彼女を雨から守る。水分を含んで肌にへばり付き視界を阻む髪を除けてやると、名前は悲しそうに呟いた。
「…源田からもらったキーホルダ…こんなになってた…」
「キーホルダー?」
彼女が握り締めていたのは、前に俺があげた小さい王冠のキーホルダーだった。元は綺麗に整った形をしていたが、今は雨に塗れて泥にまみれ、しかも枠がグニャリと曲がってしまっていた。ああ、彼女はこれを探していたんだ。そう納得すると落胆している意味も自ずと分かった。
「ごめん源田…源田が、せっかくくれたのに…」
「いい。気にするな」
「でもっ」
「いいって。お前が気に病む事じゃない。こうなるってのは運命だったんだ」
「………うう」
謝罪を繰り返す彼女は雨の中でも分かるほどの大粒の涙を流していた。ふと彼女にキーホルダーをあげた時の事を思い出す。あの時の名前の嬉しそうな顔はどうしようもなく可愛かった。そう思い返しながら俺は彼女の頬を伝う涙を拭き取りながら笑った。
「気にするな、また新しいのやるから」
「いやだ、これがよかった」
「我が儘言うなよ」
「…源田から初めて貰ったのに」
「……」
雨に濡れ、涙を流しながら駄々をこねる彼女がどうしようもなく愛おしくて、気付くと俺は思わず傘を投げ出して彼女を抱きしめていた。
「…げん、」
「……次買ったのをもっと大切にしてくれた方が、俺は嬉しいよ」
俺の言葉で驚いていた名前の肩から力が抜けていった。ゆっくりと背中に回された手を確認すると、俺はまた抱いている腕の力を少し強めた。
「…約束だ、次のはもっと大事にしてくれよ?」
「……うん。約束する、ごめん源田」
「謝るなって」
苦笑しながら立ち上がらせると彼女は困ったように眉を下げて笑っていた。開いたまま転がっている傘を仕舞う。そのままそれを持った反対の手で彼女の手を握ると、彼女は驚いたように目を見開いた。
「…傘は?」
「もうこれじゃ意味ないだろ」
お互い服を見ると、当たり前にお互い雨でビショビショだった。思わずため息が零れる。
「傘ももう泥だらけだ」
「源田の所為だ」
「反論は出来ないな」
雨は少し弱まってきていた。地面にぶつかりぽつぽつと音を立てる雨を見て彼女は笑う。少し先の空を見上げると、灰色の雲の隙間から水色の綺麗な空が見えていた。
「…濡れて帰るか」
「……うん」
俺の言葉に返した彼女の声は、なんだか満足げで不意に笑みが零れた。
君と居れば、晴れない心はない
(悲しみなんか雨と一緒に流してしまえばいいんだ)
100104
風邪引くwwwww大人しく傘をさせ源田www
どうでもいい情報ですが我のケータイについてた王冠のキーホルダーがマジで壊れていた件^p^悲しい