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「佐久間」


弱々しい彼女の手に力を込めずに手を乗せると、名前は小さく微笑んだ。白い壁に囲まれ、白いベッドの中で、限りなく白に近い肌の彼女が、消え入りそうな声で俺の名前を呼ぶ。その声にさえ彼女の愛を感じて俺は苦笑した。


「何だ?」

「…人は、いつか死ぬんだよね」

「何言い出すんだよいきなり」


彼女の言葉に胸が締め付けられる。こんな状態でなければきっとそんな事はないのだろうが、今彼女を目の前にして、しかも彼女がそんな事を言い出すなんて。彼女を大切に思っている人であれば当然の反応だと言えた。


「じゃあ、佐久間もいつか死ぬね」

「……まぁ、そうだろうな」

「ならいいや、佐久間は長生きしなきゃダメだよ」

「…お前も、だろ」


窓から見える殺風景な景色を見ながら彼女は風が吹けば聞こえなくなりそうに小さな声で言った。何故か鼓動が早くなる。なんだかいつもと違う気がして、本能的に危険を察知したとでも言えようか。俺は乗せただけだった手にほんの少しだけ力を込めた。彼女の視線が俺をに戻ってくる。薄く開いたその瞳が笑って、いつもより寂しそうに、でも少しだけ幸せそうに俺を見ていた。


「………名前?」

「佐久間、」

「…何だ?」


限りなく小さく開かれた口から紡がれる俺の名前に、俺は必死に耳をそばだてた。脳に危険信号が走る。だけど今は彼女の言葉を聞かなければならない気がして、俺はナースコールを押す手を止めた。


「……さくま、…なまえ」

「…何だ、名前」


優しく名前を呼ぶと名前は満足したように口角を少しだけあげた。そして力の無かった手が少しだけ俺の手を握り返したかと思うと、また消え入りそうな声で、俺を愛おしそうに見つめて小さく呟いた。



「……………先に、いってる ね」



外には風が吹いていて、落ち葉がはらはらと舞っていた。窓がカタリと音を立てる。風にさえ負けそうだと思っていた彼女の声が、今は信じられないほどはっきり聞こえた気がした。思考が止まる。彼女が静かに目を閉じたと思うと、握り返していた手から完全に力が無くなって、重力になされるがままにうなだれた。瞬間、さっきまで聞こえていた風の音も、窓の音も耳が拒絶したように聞こえなくなった。


「…名前?………名前、」


無意識に彼女の名を呟いて顔を見るが、幸せそうに目を閉じて動かない。



じゃあ、佐久間もいつか死ぬね



(嗚呼、名前は、)



……先に、いってる ね



(名前はこうなると知っていたんだ)


先に行っていると、待っていると、そう伝えたかったんだ。脳が無駄に冷静に状況を理解する。もう彼女には届かない想い。それを握り潰すように、ただただ冷たくなっていく彼女の手を、今だ壊れそうだと強く握れないまま、俺は彼女を抱きしめて流れる涙を必死に隠した。
















(すぐにでも君の所にいきたいのに、君に言われた言葉は俺をここに踏み止まらせて離さない。)

























100105
シリアスが書きたくて^^そして死ネタww強く握りたいのに握れないっていうのが物凄く好きなんです私。切ないよねそういうの。

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