過去ログ | ナノ






「今度は誰とケンカしたの?」

「先輩」

「年上にまで突っ掛かって…やられるに決まってるでしょ」


口元の傷を消毒しながら、彼女は呆れたように呟いた。仕方ないだろ、ムカついたんだから。俺は母親のように説教をする彼女の言葉を受け流した振りをしながら夕日のオレンジが差し込む保健室の窓に目をやった。


「なんでまたアンタは懲りないかな」

「ムカついてもそのままにしとけってのかよ」

「そう。そのくらい受け流せないと大人になったとき辛いのは佐久間だよ」

「なんだよタメのくせして」

「アンタが子供すぎんの」


加減して頭を叩かれるだけでも、傷だらけの身体には結構効いた。


「全く…何がそんなにムカつくの?あたしでよかったら聞いてあげるよ」


優しく言われた言葉を聞いて不意に口をつぐんだ。彼女から目を逸らす俺。その行動に疑問符を浮かべる彼女はたった一瞬の優しい口調も一変してさっきまでの雑な口調に戻ってしまった。


「何さ、あたしには言えないわけ?」

「……別に」

「あからさまに目逸らしやがって。もう手当てしてやんねぇぞバカ!」

「痛ぁッ」


男勝りな口調でいつも通りに頭を叩かれる。殴られたり蹴られたりした後で頭痛も酷いというのに、その上の彼女の攻撃は今の俺にとって相当辛い。かといって俺は彼女に理由を言うつもりは無かった。他の誰かには言えるかもしれないけど、彼女だけには。俺のプライドにかけても言えない。そう思い口をつぐむと彼女はそれを見てかまたため息をついた。椅子に座り大人しく彼女の治療を受けているから今は彼女の方が背丈的には上なため、その呼吸音が上から降ってくるようだ。音もなく叱られている気分になって少しだけ反省した。




「ねえ佐久間」




名前を呼ばれ不意に顔をあげると、そこには辛そうに悲しそうに目を細めて笑う彼女の姿。思いもしない表情の彼女に俺は目を見開いた。



「………あたしじゃ頼りない?」

「え……」

「頼りないから言えないんじゃないの?」

「いや…」

「じゃあなんでっ」


大粒の涙を隠すように名前は制服の裾でそれを拭う。綿密に縫われたその記事は丈夫な為、すぐに彼女の目元は赤くなっていった。しかし涙は止まらず、その手も止まらずに彼女の目元が赤みを増していく。俺は痛々しい彼女の目を見て、それを止めようと彼女の腕に手を伸ばした。いきなりの事に驚いたように俺を見る名前。俺は無意識に床を見てしまった。それから逃げるように思わずまた目を逸らしてしまった事に後悔しながら。


「―――……お前を…バカにされた」

「…え、」

「お前の事をあいつらはバカにしてた!男勝りで頑丈で、可愛いげのないヤツだって!それが許せなかった!」

「……なにそれ」


いきなり大声を張り上げたのがいけなかったのか、彼女はポカンとした顔で俺を見ていた。多分今めちゃくちゃ顔赤くなってんだろうな俺。だから言いたくなかったんだよ。


「そんな事でケンカしたの」

「………悪いかよ」


「―――………………全然」


間をあけて彼女がポツリと呟く。その顔はいかにも“バカじゃないの”といいたげで内心少しだけイラッとした。でもそんな事すぐに吹き飛ぶ。彼女はいきなりぷっと吹き出すと自らの口元を抑えながら笑い出す。笑われた。いや、笑われてる進行形で。彼女は困ったように眉を下げながら嬉しそうに笑い続けていた。


「お前っ笑いすぎだから!」

「だって!佐久間がそんな理由で!しかも男勝りって!図星っ」

「……お前なぁ」


ひとしきり笑うと彼女は走り疲れたように荒い息を整える為に深呼吸をした。俺はその間も複雑な心境でそれを見ている事しか出来ない。彼女が俺を見る。目の周りが赤くなった顔で、嬉しそうに。





「ありがとう、バカ」





彼女は俺の口元の傷から少しズレた場所をつねりながら笑った。頬が引っ張られて少し痛い。けどそんなの気にならないぐらい、俺は幸せな気持ちでいっぱいだった。




「一言多いんだよ、バーカ」
















(どんなに傷を負っても、君の笑顔の為ならば喜んで)

























091218
\(^O^)/ダメです先輩!3日越しに作ると話が分からなくなります!
やっぱり即席があたしには合ってるんだなぁ。と実感したgdgdクオリティーでした。

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