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「卒業かぁ…」


今日、俺らは中学を卒業した。校舎を見ながら、彼女はポツリと呟いた。その少し後ろで俺は風で髪をふわふわと揺らす彼女の姿を見ている。帝国学園はエスカレーター式だから、俺はそのまま高校に行くが、彼女は家の都合で違う高校に行くこととなっていた。


「ここも、もう来ないんだなぁ」


多分もう一生帰ってくることのない校舎に想いを馳せる彼女を、俺は複雑な心境で見つめている。せつなげに微笑みながら彼女は髪を掻き分けた。


「元気でね、佐久間」


いきなりの言葉に、胸を締め付けられる。ああ、これで最期なんだ。彼女と会話出来るのは。彼女の笑顔を見られるのは。一気に辛さが押し寄せてくる。今までいろんな事を話したけど、まだ何も話していない気がする。俺はまだ、何も彼女に自分の気持ちを伝えてはいない。俺は必死に顔に出さないようにしながら、口を開いた。


「なぁ、名前」

「何?」


名前は校舎を見ている。うっすらと、早咲きの花の香りがする。彼女に合う香りだと、何故かふと思った。





「ずっとお前が好きだった」





初めて口にしたはっきりとした自分の気持ち。変に口がはきはき動いて信じられないくらい感情が溢れ出す。



「今も好き、これからも好きだ。ずっとお前が好きだ」



ああ…本当にこれで最期なんだな。きっと、この答えを聞けば、俺と名前は離れ離れになってしまうのだろう。彼女はこちらを見ない。きっと、きっとこのまま去ってしまうのかも知れない。そのままさらさらと風に溶けていってしまいそうな気さえする。それでも俺は、俺の見る彼女の最期の姿を目に焼き付けて置きたかった。
風が吹いた。花のにおいが濃くなって、風が弱くなるに連れて薄くなった。春のにおい。これが彼女と共有した、最期の風。彼女の髪が風に舞う。それを押さえながら、名前は振り向いて、風が止み切らない内にふわりと笑った。




















(風に舞った、言葉が消えた)



















091205
帝国ってやっぱりエスカレーターなイメージ。ああああハムスターの滑車が煩くて眠れないわ

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