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あたしは佐久間が好きだ。空色の混ざった銀の髪も、整った顔も、インパクトを与える眼帯も、何事にも強気な姿勢も、すらっとした容姿も、たまに見せるふて腐れた表情も、不意に見せる優しさも。全部、言い足りないぐらい全部好き。あたし達は佐久間がサッカーを始める前からの幼なじみで、ずっと仲良くやってきた。たまにケンカもするけど、彼が嬉しい時も悲しい時もずっと一緒に居た。自分で言うのも何だけど、あたし達はお似合いだって思っていたりする。彼がどう思ってるかまでは分からないけど、あたしは、過去も未来もずっとそう思い続けるはず。



たとえ彼がどんなに変わってしまおうとも。



「佐久間」


あたしが呼んでも彼からの返事はない。過去の生活上寂しさを感じるのは仕方ない事だと自分を押し付けるようにして心を鎮める。表情も殆どないままにボールを蹴っている彼。その額には雨に降られた様な汗が流れていた。あたしはもどかしさを感じるが、乾いたタオルを持ちながらそれをただ見守る事しか出来ずにいた。


「そろそろ休もうよ、体持たないって」

「煩い」

「もう3時間も休んでないよ」

「煩いッ!」


前触れもなく叫ばれてあたしは目を丸くして彼を見る。今彼が持っているその感情は間違いなくあたしに向けたもので、怒りと焦燥に満ちた表情でこちらを睨みつけてくる彼に本能が恐怖で震える。反射でごめん、と呟くとあたしはさっきまで座っていたベンチに戻った。

何が彼をこんなにも駆り立てているのだろう。その問いの答えはもう分かりきっていた。鬼道有人――世宇子に負けた帝国を裏切り、雷門に逃げたとされる元彼らのキャプテン。彼の存在、彼の裏切りが今の佐久間を生み出してしまったのだろう。
だがあたしは真実を知っている。鬼道は帝国の仇を取る為に雷門に行ったのだと。しかし残念な事に佐久間達にはそんな真実など無意味だった。試合で精神的にも傷付いた彼らにとって最初に耳に入った“裏切り”という衝撃のみが真実であり、それは計り知れない悲しみと憎悪を生み出してしまったのだから。彼が狂気に目覚めたのと同時に、あたしはそれが常に佐久間の隣にいたあたしにさえ手に追えない傷だと分かった。それはあたしが癒す傷ではない、“裏切り者”という汚名を背負ってしまった鬼道だけが癒せる傷なのだと。

彼がきつく唇を噛み、憎らしげにボールを蹴るのを見ると、楽しそうにサッカーをしていた昔の彼の姿が脳を駆け巡って目を伏せたくなる。彼はいつになったら今の絶望から抜け出せるのだろう。この真・帝国学園に来た時からぐるぐると巡る感情を噛み締めていると、ドサッと乾いた草の折れる音が聞こえて俯いていた顔をあげフィールド見る。そこには体力の限界を越えたのか、佐久間が力無く倒れ込んでいた。


「佐久間っ!」


無意識に彼の名前を叫んで駆け寄り、抱き上げるとほぼ振り回すのと同じ感覚で手を振り払われあたしは成す術もなく彼を見た。彼はさっきまでの威勢も無く、ただ薄く開いた目から今だ鋭い視線をあたしに送り続けていた。
不意にガタリ、と膝から崩れ落ちる佐久間。その体は丁度あたしの方へ倒れこんで、抱き抱えるようにしてあたしは佐久間の体を支えた。抜けだそうとする彼を押さえると、流石に無理だと悟ったのか彼は大人しくあたしの手に従った。


「…佐久間、」

「…………名前」

「……何?」


久しぶり名前を呼ばれ一瞬混乱するが、あたしは彼を少しでも安心させようと冷静を装い返事を返した。完全に覇気を無くし、虚ろに虚空を見ながら佐久間は口を開いた。


「何で俺について来た?」

「――……え」


考えもしなかった問いに声が漏れる。何でって、何?あたしはただ今まで通り君の隣に居たかっただけなのに、それは疑問に思う事なの?君にとってあたしは居なくてもいい存在なの?彼の絶望が流れ込むようにして心を闇が侵食していく。今彼の1番近くにあたしが居るのに、一気に彼が遠い存在に思えた。気付くとあたしの頬には一筋の雫が伝っていた。



(――……好きだから、だよ)



そう思った頃にはさっきまで虚ろだった彼の目には光が戻っており、意思とは裏腹にあたしの口は動こうとはしなかった。










  





(たとえ君がどんなに変わってしまおうとも、…私は)

























100129
「その恋、何色」シリーズ第9弾。
“黒”で佐久間。……………長いwwww凄い長いよ気付いたら4000文字だよバカみてぇwwww真帝国ネタ楽しいです。シリアスうまうま

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