過去ログ | ナノ
「あ、苗字」
「…風丸」
日の落ちたグラウンド。ほんのり空にオレンジが残っているものの、辺りは暗めだ。校舎には所々明かりがついているものの、多分殆ど生徒は残って居ないだろう。
「まだ残ってたのか?」
「ちょっとね。部室の整理とかしてて」
「…そうか」
「風丸は?もう皆帰ったと思ってたのに」
「いや、別に」
「ふーん」
あたしが問うと、そんな曖昧な返事が返ってきたからあたしも曖昧に返した。こちらを見ている風丸。何となく恥ずかしくなって視線を彼から外して空を見た。段々とオレンジがひいて、夜の濃紺がそれを侵食していく。何をするわけでもなく、あたしはそれをぼー、と見ていた。
「いつもありがとな」
「…何が?」
「マネージャー。お前のお陰で皆助かってる」
「秋ちゃんとかも居るじゃん」
「そうだけど」
いきなり言われて内心凄く焦っている。あんな事不意打ちに言われてしまったら、あたしの性格上ぶっきらぼうに返すしか無くなってしまう。きっと今あたしの顔真っ赤なんだろうな。外が暗くて良かったと心の底から思っていた。
「オレはお前が一番頑張ってると思う」
「なんで?」
「なんでだろうな。お前も木野達と同じ事してるだけなのに」
「…」
「気が付くとお前が頑張ってる所しか見てないんだよな、オレ」
「たまたま。気の所為だって」
「…かもな」
風丸が話す度顔が熱くなるのがはっきり分かった。きっと彼が思わせぶりな事ばかり言うからだ。きっとそう。もう間違いない。ハハハと笑う彼に顔を向けられず、あたしはひたすら黒みを増す空を見ていた。
「あ、1番星」
「…本当だ」
あたしが無意識に呟くと、風丸も顔を上げ空を見た。オレンジと紺色の混ざり合った中間辺り、その星はただ真っ直ぐに光を放っていた。
「なぁ苗字」
「…何?」
「もう暗いから、一緒に帰らないか?方向一緒だったよな」
「え、」
「嫌ならいいけど」
「…いや、別に」
「良かった」
不意に風丸を見ると、薄暗い中で満面の笑みであたしを見ていた。胸が高鳴る。暗いから心配は無いだろうが、今絶対顔赤いから風丸に見られたら恥ずかしくて死んでしまいそう。今だけでもこんな状態なのに、あたし本当に風丸と一緒になんか帰れるのだろうか。
「ほら、行こうぜ。もっと暗くなっちゃうぞ」
風丸の声にふと顔を向けると、彼はあたしに手を差し延べていた。手を繋げ、と言うのか。無理だ。無理むりむり。絶対変に手汗とかかいてああああってなるから無理。
「…ちょ、風丸」
「ほら、早くしないと真っ暗になるって」
「ちょ、風っ」
無理矢理に捕まれた右手。あたしは焦って彼の後ろをついて行く。ぐいっと引っ張られて痛いのかと思ったが、意外とそうでも無かった。次第にその歩みはゆっくりになってきて、それに釣られてあたしの緊張も収まっていった。
「…風丸」
「何だ?」
「、その」
「…?」
「…、いや、何でもない」
「はっきり言えよ。気になるな」
空はもう暗かった。漆黒に染め上げられたその中に星が沢山散りばめられている。あたしはそんな空を見ながら、彼の隣をゆっくりと歩いて帰った。
君の知らない物語
(君の手の方が熱いなって気付きながら)
091024
君の知らない物語で夢を書きたかったんだ!ずっと!即席だからあああってなってるけど気にしないの即席だから