過去ログ | ナノ






ベタな程綺麗に光るステンドグラスと、これまたベタな程に大きい鐘がある教会。あたしの隣には白いタキシードの彼。愛したことのない結婚相手。父が決めた婚約者。世間の流れるに逆らう事なく、あたしは今日、この人との結婚式を迎えた。
母が勝手に決めた自分に合わない程フリフリなドレスで、あたしは神父の前に立っていた。見れば見るほど立派な教会だが、本当は心底似合わない場所だと思っている。そりゃあたしだって、こんなきらびやかな場所での結婚式に憧れたりした事はあるけど、こんな形でその夢が叶っても全く嬉しくない。
あたしはただ、本当に心の底から愛してる人と、どんなに地味な形でも幸せに生きていければそれで良かったのに。そう、それは今でも記憶の中に鮮明に残る、あの日々みたいに


「婦…新婦…!」

「―――…あ」

「何をぼう、としてるのですか、挙式中なのですよ」

「…すみません…」


小声で怒られて我に返る。呆れた表情の神父に、あたしの隣で苦笑する彼。…別に、彼が嫌いな訳ではないのだ。いい人だと思うし、寧ろ好き。でも、愛してはいない。あたしには彼よりもっと、大切な人が居る。ずっと、忘れたこともない、まだあたしが中学生だった時からの想い人。


(―――…風丸…)


一応今日の招待状は出したけど、正直あまり来てほしくない。もし彼がこの式場に居たら、あたしは誰の思考も裏切って彼に想いを告げてしまいそうだから。
世間はあたしが抗う事を許してはくれない。あたしの“誓い”を待つ沈黙がそれを示していた。あの時純粋に恋をしてた自分に思いを馳せながら、あたしは誓いの言葉を述べようと口を開いた。


「…誓いま―――」


その瞬間、荘厳な扉がガタリと音を立てて開く。外から差し込んだ光でシルエットとなった扉を開いた主の姿に、あたしは思わず目を見開いた。そのシルエットの正体は、あたしがずっと想い続けていた空色の髪の、彼。


「間に合った、か?」

「……かぜまる…」


驚いた来客者達は皆動く事も忘れ、ただいきなり現れた彼に呆気を取られている。そんな事を気にする事もせず、彼はあたしに向かって歩を進めた。半分程来た所で、あたしの目の前に白い袖が現れて、風丸は少しだけ眉をひそめて立ち止まった。


「誰だお前は!何しに来た!」

「…ちょっとそこの新婦に攫ってくれって頼まれたもんで」


平然と答える風丸の姿に、あからさまな動揺と怒りを示す新郎。そのままあたしの前に立ちはだかって彼はほぼ叫ぶようにこう言った。


「彼女が欲しいなら、俺を倒して行け!」

―――…何処のザコキャラだアンタは。
彼はある意味必死だった。彼があたしの事を本気で好きかなんて分からないけど、ただ必死に、自分の名誉とか意地とか見栄とか、そんなものを汚さないように。呆れた。シンプルな感情でそう心の中で彼に呟きながらも、あたしは道を阻まれて動けずにいた。
不意に見えた微笑。目の前の新郎の腕の隙間からそれを確認するのとほぼ同時に、あたしの体は宙に浮いていた。


「…疾風DFを舐めるなよ」


気付けば見える景色が変わっていて、あたしの体は風丸によって横抱きされ、バージンロードの真ん中に居た。


「ちょ、風丸っ」

「逃げよう」

「え…」

「逃げよう、一緒に」


冗談めいた声色で告げられる。しかしそれは確実に、あたしが望んでいた“世間に抗う”事に繋がる誘いの言葉だった。
外に向かって走り出した彼の腕に抱かれながら、ムダに付いたフリルが揺れるのを見ていることしか出来ないあたし。教会の中では大混乱が起こっているようで、あのザコキャラの叫び声と、さっきまで冷静だった神父の牽制が煩く反響している。扉の中では勝手にあたしの結婚を決めた父と、ドレスを決めた母の姿が見えた。ごめんね、あたしの幸せを願ってくれてるのは十分伝わってた。ありがとう2人共。
あたし今、1番幸せだよ。


「ベタに海でも行くか?」

「あたし久々にキャプテンに会いたい」

「この格好で円堂の家か?」

「ダメ?」


連れ去ったくせに今更何を。それにしてもバサバサと煩いドレスは、あたしの生に合わなくて、スカート部分のフリルの境目を目掛けてあたしは手をかけた。そして勢い良く引きちぎる。ビリビリと衝撃的な音が響いたのもつかの間、軽くなったのと同時に彼の足取りも速くなった。


「これなら、文句ないでしょ?」

「………あぁ。」


あたしが笑って見せると、少し置いてから彼もまた満足そうに笑った。既に教会の姿は後方に小さく見える程度。追っ手も彼のスピードにはついて来られなかったようで、あたし達の後ろには誰も居なかった。
そしてあたし達は走り続ける。あの幸せだった、ただ目の前の事に夢中になりながら、子供の頃の様に。
















(キャプテンとまたサッカーしたいな)(その格好でサッカーは無理だろ)

























100623
大人パロとかあんまり好きじゃないんですが…思い付いたネタが誰にも当て嵌まらなくて仕方なく…くそ…無理した結果がこれだよ…!
丸さん仕事何してんだろ…まだサッカーしてんのかな…

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -