過去ログ | ナノ






ガシャン、パリン、ドスン。耳の痛くなるような音が鳴り止まない。それだけではない。音の主である彼女の周りでは、心配する声や慰める声、呆れの言葉が絶えず聞こえていた。彼女の名前は苗字名前。この前音無伝いに入部してきた新入りマネージャーだ。

が。


「先輩ぃっ!そこ退けてぇえ!」

「うわっ!?何!?」


洗い終わったタオルを山積みにして持ちながら、噂の少女がこちらに向かって走ってきた。俺は思わず声をあげるが、余りにいきなりの状況に避ける事さえ叶わず真っ正面から彼女にぶつかってしまう。いや、寧ろぶつかられたと言うべきか。
散乱するタオル。幸い頭は打たなかったものの、俺も彼女もお互いに地面に倒れてしまった。いたた、と呟き打った腰を労りつつ彼女はこちらを見る。そしてその瞬間踵を返したように改まった態度で姿勢を正した。


「すみません先輩!あたしの不注意でっ」

「あー気にするなって、別に俺何処も痛めてないし、苗字こそ大丈夫か?」

「あたしは丈夫なんでっ大丈夫です!」


―――丈夫って。


この質問にその返答は果たして正解なのだろうか?疑問に思いながらも散らばったタオルを無意識に掴みとると、彼女はまたしても焦ったように声を上げた。


「ああ先輩!お気になさらず練習に戻ってください!」

「別にこれくらい手伝ったっていいだろ」

「ダメですって!」

「なんでだよ?」


必死に俺の手を掴んで止めようとした瞬間、彼女の動きは一気に鈍くなった。落ちたタオルを1枚手に取ると、彼女は自分を追い詰めるように唇を噛む。グッ、とタオルを掴んだ手に力を込めると、白いタオルに出来たシワが影を作り出した。


「この部活に入ってから、あたしミスばっかりだし…迷惑ばかりかけて…せめて先輩達の役に立ってから辞めようと思って」

「辞めるってサッカー部をか?」

「………はい」


苦笑を漏らしながら自分を戒めるように俯く彼女に、俺は少しだけ腹が立った。何だ役に立ってからって。まるで今役に立ってないとでもいいたげな物言いだ。


「役に立つ気が無いなら、」

「…?」

「役に立つ気が無いなら、辞めればいい」

「え…」

「やる気がないなら、今即刻辞めるべきだ。でも、少しでもやる気があるなら、これからもずっと努力すべきだ。そう思わないか?」


入りたてだというのに、少々キツく言い過ぎただろうか?
微妙に後悔しながら、俺は彼女の視線に合わせてそう告げる。驚いた様子の苗字。ポカンと口を開けて、何とも間抜けだ。そんな彼女の姿に少しだけあった苛立ちもすんなりと消え、若干笑いそうになりながらも、俺は散らばったタオルの一枚を広げた。


「苗字は十分頑張ってくれてるよ。誰も迷惑だなんて思ってない。安心しろよ」

「…先輩、」


このタオルがこんなに白いのも、彼女が頑張ってくれたおかげ。彼女や、他のマネージャーが居なければ、部活がこんなに円滑に進む事は無いのだ。それを再確認しながら、俺は広げたタオルを彼女の首に掛けてやる。尚も驚いた顔の苗字を見ながら、安心させるべく笑って見せた。



「いつもありがとう、苗字」



照れ臭いが、気にしない。彼女にはいつか伝えるべき言葉だったから。日常ではなかなか言えない事。こんな機会だからこそ、改まって言えるのだろう。ほんのり赤くなって、安心しきった微笑みを返す彼女のを見ながら、俺は自分の心臓が高鳴っている事に気が付いた。


「…ありがとうございます、先輩」

「お礼なんていいって、俺は何もしてないし」

「あたし、今ので元気出ました。先輩のおかげです」

「……そっか」


真っ直ぐに告げられる彼女の素直な感謝の言葉に、胸がとくんと音を立てる。散らばったタオルを素早く回収すると、彼女はまた歩き出した。今度は焦らずに、ゆっくり一歩ずつ。不意に彼女が振り返るのを見て、自分がそこに立ち尽くしてしまっていた事に気が付いた。くすり、と笑った彼女に羞恥を感じ、聞こえた彼女の声で苦笑を漏らしながら、俺はいつも通り練習に戻る。鼓動がいつもより早いのに、気付かないフリをしながら。



「頑張って下さい!風丸先輩!」
















(君の笑顔に支えられてる、そんなキザな事までは言えないけどさ)
























100609
久しぶりーヽ(´∀`)ノ丸好きだぁぁぁぅぉぉぉ


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