過去ログ | ナノ






なんであんな事言ってしまったのだろう。今更自分でも分からないけど、あの時、何かが自分の中で爆発したみたいにムカついて、気付いたら飛び出していた。
校舎横の日陰、人通りの少ないこの場所であたしはうずくまって泣いていた。途中彼の呼ぶ声も振り切って、ただただこの状況から逃げたくて。


『一郎太なんてもう知らない!』


(……、)


自分らしくもなく、感情任せに出た言葉。“嫌われた”。咄嗟にそう思った瞬間にあたしの足は勝手に動いて走り出していて、今はもう彼の姿は見当たらない。
週末に映画に行く約束をしていたのに、彼の部活の都合で行けなくなってしまったのがそもそもの始まり。
久々に一緒に居られると思ったのに、また彼は予定をキャンセルせざるを得なくなってしまった。彼が悪いわけではない事ぐらい分かっている、誰が悪いわけじゃない。ただ運がないだけ。だからいつも我慢していたのに。
彼はいつも約束を破るときに罪悪感に満ちた顔をする、本気で悪いと思っているから。そんな事分かってるのに、何故あたしはあんな事を、考えても考えても分からない。


(ごめんなさい、ごめんなさい)


ただ後悔が溢れてくる。どれだけ心の中で謝罪を繰り返しても尽きることは無かった。だって彼には伝わっていないのだから。
不意に聞こえるグラウンドからの声、サッカー部だ。一郎太はもう練習に行ってしまっただろうか、きっとそうだろうな、もうあたしなんか一郎太の重荷にしかならないのだから。あんなに辛そうに約束を守れない理由をあたしに告げるのだから、元々ない方が彼にもいいのだろう。無意識にそう思考が進んでいた。


「名前っ…」


呼ばれた名前に反射で伏せていた顔を上げる。そこには影で暗くなった空色があった。


「一郎太…」

「なんでいきなり飛び出て行くんだよ!びっくりするだろ!」


息を切らした彼が不安げにこっちを見ながらあたしを怒鳴る。まただ、またあの目をしてる。ごめんなさい一郎太、やっぱりあたしは貴方を不安にさせる事しか出来ないんだ。


「ごめんなさい…一郎太、」

「何謝ってんだ、泣くなよ…」

「ごめんなさい、ごめんなさい…」

「謝るなって、…どうしたんだよ」


溢れてくる涙を必死に止めようと瞼を手で擦っても、逆効果だとでもいうように止まる気配はない。彼はあたしの目の前にしゃがみ込む。同じ目線に彼の顔があって目を反らしたくなった。


「…ごめん、名前」

「………なんで一郎太が謝るの」

「約束守れなくて」

「…………………一郎太、」


ほら、まただよ。あたしは貴方に謝らせることしかできない。改善策も見出だせないまま、また貴方を苦しめてる。
あたしが言わなくちゃ、彼がもう苦しまないように。


「別れようよ、」

「………名前、今なんて」

「……別れよう、一郎太」


くるしい、胸が締め付けられるような核心的な、痛み。ただ別れを告げるだけの言葉で人はこんなにも痛いんだ、切実にそう思った。


「なんでそんな事いうんだ?」

「一郎太には、あたしが負担なんだよ。だから別れた方がいい」


本当はあたしがこれ以上彼に嫌われないようにと起こした自己防衛だったのかもしれない。確かに辛いけど、彼の為、あたしがまたあんな事を言ってしまわないようにするにはこれがあたしが思い付いた最善の策だった。また俯きそうになるが、それは彼の手によって止められる。霞む視界に彼が写ると、また申し訳ない気持ちが溢れてきた。


「誰が重荷だなんて言ったんだよ」

「でも…一郎太はあたしの事嫌いに」

「だから、誰がそんな事言ったんだよ」


まっすぐに見つめられる目に言葉を失う。瞬間に理解する。嗚呼、彼はあたしを重荷だなんてこれぽっちも思って無かったんだ、全てはあたしの勘違い。暴走していた脳が一気に収まっていくのが分かる。気付けば涙も止まっていて、ただ先程までの涙の道筋だけがあたしの頬に残っていた。



「お前が居ない方が俺はダメになる」



温もりが伝わる。彼があたしを静かに包んで呟いた。静寂を取り戻した脳に響く彼の声が、ただ胸に染みた。彼は困ったように苦笑しながら約束守れなくてゴメン、とあたしの耳元で囁いて、またさっきより強くあたしを抱きしめた。大丈夫だよ一郎太、あたし気付いたんだ、そんな約束守れなくたってこの想いは切れないんだって。そんな想いを込めてあたしは彼の手をぎゅっと握り返した。










これ以上、気持ちが離れることはないと気付けたから、僕らは強くなれる





(遠くにいても、近くにいても)

























100326
汐里様リクの“内気ヒロインと風丸”でした。……………か^p^?
内気要素が何処にあるのかがまず分からないのと、とりあえずgdgdしてるっていうダブルコンボ/(^O^)\アーッ!
内気ヒロインって難しい…得に丸だと難しい…うむうむ。我の弱点を発見しました。
汐里様リクありがとうございました!

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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