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「いい天気ー!」


伸びをする彼女の姿を見て空に視線を移すと、雲一つない青空が広がっていた。現在昼休み。いつも居る源田は委員会で不在の為、今日は俺と苗字で休み時間を過ごしていた。


「幸次郎残念だねーこんないい天気なのに」

「そうだな」


久々に来た屋上で彼女ははしゃいでいた。フェンスに手をかけて景色を眺めると満足げに笑っている。俺はその後ろをゆっくりついていった。


「あんまり乗り出すと落ちるぞ」

「…なんか…佐久間最近幸次郎に似てきたね」

「そうか?」


源田に似てきた…か。なんだか微妙な心境だ。お前がそそっかしいからだろと付け足せば酷い、と頬を膨らませる苗字。それを見て俺は苦笑した。


「あ!」

「なんだよいきなり」

「教室にマンガ忘れてたきた…」

「屋外でもインドアだなお前」

「借り物だから早く返さないといけないんだよー…」


なら取りに行けばいいものを。そう言うと彼女はめんどくさい、と言い放った。いかにも彼女らしい返答に納得せざるを得ない。寝転がった彼女を見ながら俺も隣に座る。大の字になる彼女は女子であるからスカートな訳で。立っていると見えない太ももまで見える彼女の姿に大胆さというか警戒心の無さというか節操の無さみたいなものを感じる。顔が赤くなるのを抑えながらその足をなるべく視界に入れないようにするものの、純粋に白いななんて脳内で感想を述べている自分もいて一層恥ずかしくなった。


「苗字、お前…スカート」

「あ、ごめんごめん」


言葉ではそういうものの、全く謝っているそぶりはない。…なんだよお前、俺のドキドキを返せ。そんな事をふと思うが口にはしない。だって彼女は俺の気持ちなんて知りもしていないのだから。
彼女に初めて会ったのは、いつかの源田の鍵当番の日だった。源田と仲よさ気に話す彼女の笑顔を見て俺は胸が高鳴ったのを覚えている。その数日後、彼女は源田にくっついて俺に話しかけてきた。人慣れしていないようなおどおどした態度をして、でも数日前に見たあの微笑みを俺に向けながら。そして俺は瞬間、彼女が今まで俺を取り巻いていた女子とは違う事に気が付いた。それから俺は彼女と源田と共に行動することとなる。その間俺は彼女のいろんな面をみる事となった。鈍感で変に勘がよくてめんどくさがりで勉強が大嫌いで動く事が嫌いでマンガが好きで、他人に興味が無くて。女子では考えられない言動や行動をする彼女に、俺は段々と引き寄せられていった。始めのそれは只の好奇心だったのかもしれない。だが今ははっきりと分かる。俺が置かれている状況を世間では一目惚れといって、加えて初恋である、と。


「最近よくあのマンガ読んでるな。どんな話なんだ?」

「少女マンガ。初恋のお話」

「……苗字もそんなの読むんだな」

「…ねえ佐久間」


寝ていた身体をむくりと起き上がらせると苗字は俺を見た。その眼差しは真剣そのもの。あまり見ない彼女の表情に俺の心臓はドクン、と跳ねた。


「何だ?」


変に改まってしまう。微妙に期待を込めて。


「……佐久間、さ」

「…なんだよ」







「あたしの事、苗字呼びだよね」







「―――…………はぁ?」

「あ、めっちゃ間」


そういや彼女は“他人に興味ない”んだった。少女マンガなんか読んでるからすっかりその気になってしまった。全く、失念していた自分が恥ずかしい。既に赤くなっていた顔をばれないようにナチュラルに隠すと彼女はまた寝転がった。


「名前呼びでいいのに」

「いや、でも。お前だって俺の事苗字呼びだろ」

「だって佐久間が最初に言ってたからノリでさ。次郎って呼べばいい?」

「………………苗字でいい」

「そう?ならいいんだけど」


なんだ今の。心臓が爆発するかと思った。ただ名前を呼ばれただけなのに。好きなやつに呼ばれるとこんなにも破壊力をもつものなんだな、恋って恐ろしい。パニクった脳でそんな事を考えながら俺は彼女を見た。


「………名前、」

「ん?なんか言った?」

「いやっ、何も」


ふと彼女の名前を呼んでみるだけでも心臓がバクバクして脳がショートしそうだ。彼女の事となると俺はいつもこうだ。きっとばれていないだろうけど。…そもそもなんで俺こんなに必死なんだろう。そう気付くと一気に馬鹿馬鹿しくなって俺も彼女の隣で寝転がった。空が青い。涼しく吹き抜ける風を感じると今までのごちゃごちゃした感情はどこかに流されていってしまったかのように収まっていた。


「ねえ佐久間」

「何だ?」

「今思いついたんだけど」

「あぁ」

「幸次郎って部活でどんな感じ?」


これだ。この痛み。心臓をチクリと針で刺されたような尖った痛み。彼女が源田の名前を呼ぶ度に刺さるこの針。俺はその存在の正体を知っていた。これは嫉妬。彼女が源田に対して親しみを込めている事に対する対抗心の表れ。彼女が俺より源田と仲がいいのは当たり前の事なのだがこの感情を抑える事はいつも出来ずにいた。その原因も検討が付かない訳ではない。俺だって鈍感ではないのだ。源田が彼女の事を好きな事ぐらい知っている。源田が彼女をどれだけ大切に想っているか知らない訳ではなかった。それを確認させられる度俺は確信する。嗚呼、俺も彼女の事が好きなのだ、と。


「世話焼きってのはあまり変わらない。」

「やっぱりそうなんだ。幸次郎らしいな」


くすり、と笑ったその顔を見てまた俺の心臓を針が突く。いくら他人に興味が無い彼女であってもあれだけ心を許している源田になら有り得るのではないか、恋心を抱いている事も。脳内の彼女と源田はお似合い過ぎてまた胸を締め付ける。それを振り払おうと顔を横に振ると何してんの、と彼女がこっちを見て笑っていた。人の気も知らないで。変な所では勘がいいくせに鈍感なのだから。別に、と答えると彼女はまたくすり、と笑って変なの。と呟いた。










   





(このもどかしさは、一体どうすればいいのだろうか)

























100114
佐久間のターン\(^O^)/長くなった
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