Long | ナノ
「あーたりぃー…」
「お前いつもそればっかりだな」
「あたし体育撲滅委員会入ってるんだ」
「おー初耳だ」
「そろそろお前出番じゃないのか?」
「あ、仕方ねぇなぁ。いってきます」
「おう。顔面直撃だけは避けろよ」
「うっせぇバカ幸」
午後1番の体育の時間。休み時間も挟んだ分、満腹感と眠気に襲われる最悪の授業だ。今日は男子と女子で体育館を2つに分けて別々の種目をやっている。ちなみに男子はバスケットボールで女子はバレーボール。名前と源田と佐久間の3人はネットの付近に集まって自分達の出番を待っていたのだった。佐久間の声でいかにも怠そうに立ち上がると、源田に最後の悪態をついてコートに向かう名前。その姿を見送りながら源田は苦笑した。
「昔は風邪引いても外で走り回ってたのにな」
「なんかお前オヤジくさいぞ」
「そうか?」
そうだ。と答えられれば反論する言葉もない。ネット際に残された源田と佐久間は自分達男子の試合など見ずに名前の姿を追っていた。あからさまにやる気のない名前がコートに立っている。自分のチームがじゃんけんで負けて即行でサーブが自分だと分かると「えー」と嫌だという気持ちを全面に押し出すように呟いた。
「アイツ運動オンチじゃなかったか?」
「オンチっつか、やらないから出来ないだけ」
「へぇ。だろうな」
「ほら、失敗してやがる」
あっという間にサーブ権が相手側になっている。それからの試合も彼女は極力動かずにやり過ごしていた。あんなので体育の成績は大丈夫なのだろうか。源田は若干不安になりながらもその姿を見ていた。
「でもアイツなんだかんだで3なんだよな、体育」
「なんの話だ」
「成績。名前の」
「お前本トに親みたいだよな」
勉強に関して名前は源田に頼りっきりだ。それが理由な訳ではないが、源田は彼女の成績を知っている。趣味以外の全てにおいて興味がない彼女は自分の事でさえどうでもいいようで、成績なんてくそ喰らえ状態だ。その為1年の頃から彼女の成績維持は源田の仕事だった。
「アイツって好きなヤツとかいんのかな」
佐久間の言葉に驚いて顔を向ける源田。だが佐久間は名前の方を向いたままだ。いつもとは様子が違う佐久間に違和感を覚えながらも源田は渋々答える。
「いるんじゃねぇの。二次元なら」
「だよな。アイツそっちにしか興味ないよな」
「…どうしたんだよいきなり」
「いや、ちょっと思い付いただけ」
「……………あっそ」
源田が短く返事をすると佐久間はいつもと変わらない様子で「今のは忘れてくれ」と笑った。だがそんな事で忘れられる事ではない。その上自分が好意を寄せている彼女に関することなど忘れろと言われて忘れられるはずもなかった。もしかしてコイツ、名前の事が?そんな疑問が瞬時に頭を駆け巡るが、考えたくもない状況を勝手に作り出す脳を必死に押さえ込む。無い無い、ありえない。そんな否定の単語を繰り返しながら源田は名前の立つコートを見ていた。タイマーの音が響く。試合が終わったのか、歩く事さえ面倒くさそうな顔をしながら彼女が帰ってきた。
「残念。10対9」
「もういい。帰ろう」
「6限目あるの忘れんな」
「帰ろう」
「待て着々と準備すんな」
脱いでいたジャージを手に取って出口に向かおうとする名前を慣れたように引き止める源田。その様子を横で見ながら佐久間はくすくすと笑っていた。
「あんたらの出番は?」
「もう少し」
「違うチームなの?」
「ああ。今のところ俺のチームが勝ってる」
スコアボードを見ると佐久間のいるチームが2点勝っていた。へぇ、と短く呟くと2人とネットを隔てた向こう側に座る名前。そして源田に視線向けるとをニタリと口角をあげた。
「あーあ。じゃあ幸次郎頑張らないと」
「別に俺1人が頑張っても意味ねぇよ」
「なんだ、幸次郎やる気ないみたいだからあたし佐久間の応援しよ」
「ちょ、なんだよそれ!」
「あ、ほら呼ばれてるよ幸次郎」
自分を呼ぶ声がして渋々立ち上がる源田。「せいぜい頑張れよー」と後ろから名前が厭味のように言ってくる。うるせぇよ、と返してやればいつも通りの笑い声が聞こえてくる。そんな事に苦笑しながら源田はコートに入った。試合開始のホイッスルを待つ間ふと名前達の方に視線を向けると、こっちをみる訳でもなく2人で話している彼女と佐久間が見えた。
(…………マジで応援しない気だ)
内心苛立つ。というか焦りが渦巻く。あのまま名前を佐久間の隣に置いていたらいつか彼女はアイツのものになってしまうんじゃないか。
初恋かぁ
アイツって好きなヤツとかいんのかな
源田サン、あの人好きなんでしょ?
瞬時に言葉が頭を駆け巡る。
佐久間君、かっこいいなぁ
<恋ですよ。恋のライバル>
(………ライバル、)
「幸次郎ー!集中していけー!」
名前の声が耳に届いて我に返る。振り返ると手を振る彼女の姿があってなんだか安心した。隣に笑っているアイツが居るのが気に食わないが。
平然を装って手を振り返すと満面の笑みを浮かべる名前。自分にしか聞こえないように呟くと、源田はボールに向かい走り出した。
「誰が集中出来るかっつーんだ。バカ名前」
心 配 彼 女
(全部お前の所為だ)
100102
新年最初の小説更新になりました^^すみませんこんなgdgdで^p^早くこの話終わらせたいなぁ。次丸の長編書きたいんだけどネタは思い付いてない←