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(あれ、まだやってた)



帰り際に友達との今日最後の会話を終えて、名前は教室を後にした。廊下の窓からグラウンドを見ると、多くの部活の中で一際目立つ部活に目をやった。源田の居る帝国サッカー部である。その脇には、それを見て黄色い声をあげている女子が数人。その姿を見て、名前は眉間に皺を寄せる。名前はああいう輩が心底嫌い(というか苦手)だった。


(お前ら煩いってこの前幸次郎言ってたぞ)


心の中でボソッと呟くものの、相手に直接言うつもりは彼女には無かった。はっきり言うことも出来るが、まず苦手分野の人間と話す事がめんどうである彼女にとって、わざわざ行動すべき問題ではないと判断されたのだ。頭の中でいろいろ思考を働かせていると、時刻を知らせる鐘がなる。ガヤガヤと、先程とは違う静けさを含んだグラウンド。どうやら殆どの部活終わりが早いらしい。


「そろそろ行くか」


きっとサッカー部の所につく頃には帰る準備も出来ているだろうと、名前は階段に向かって歩き出す。その間、先程の思考を再生していた。
何故皆あんなに部活を早く切り上げたのだろう…



「……あー…テストか」



学期始めの学力テスト。名前はその存在を完全に失念していた。


(幸次郎もそんな重要な事なら教えてくれればいいのに)


一般的に名前の様なタイプの人間は“頭が良さそう”という固定観念の元に置かれている場合が多い。が、実際の所はそうではない(名前に関しては特に)。寧ろその逆なのが、彼女の現実なのだ。


「いいや。今回も幸次郎に任せれば」


勉強で困る度、名前は源田に頼ってきた。その為、今回もそうして済ませてしまおうという魂胆なのである。満足げに自己解決して、気付けばグラウンド付近まで到着していた。源田を探す名前。しかし、彼の姿は見当たらなかった。


「ヤロウ何処行きやがったー」

「誰がヤロウだって?」

「うわぁああ!」


耳元でした声に驚き、思わず声をあげる名前。振り向くと不満そうだが、何処か勝ち誇ったような顔をした源田が立っていた。


「びっくりしたー」

「そりゃよかった」


よくねぇよ、と名前が源田の腕に軽くパンチをすると、それを受けた源田が「痛っ」と呟いた。


「まだ部活?」

「あとちょっと。あいさつして終わり」

「部活っぽいことするねー」

「まぁな。お前ここで待ってろ。すぐ戻ってくる」

「了解」


名前が返事をすると、足早にグラウンド内に戻って行く源田。それを目で追った後で、名前は不意にグラウンドの周りを見渡した。今まで興味もなく、ただ呆然としか見ていなかった放課後のグラウンド。そこにはいろいろな人が忙しなく動き回る姿があった。見慣れない光景に思わず見とれていると、いつの間にか彼女の隣には源田が戻って来ていた。


「…どうした?」

「あ、いや、何でもない」

「ヘンなやつ」

「今更」


いつも通りの会話をしながら校門に向かおうと方向転換する2人。グラウンドを横切ろうとしていると、その後ろから声がした。


「源田!」


名前を呼ばれ、ほぼ反射で振り向く源田。名前はそれに便乗するように後ろを見る。そこには右目に眼帯を付けた、銀色の髪の少年の姿があった。


「佐久間、どうした?」

「鍵。今日お前当番だろ」

「…あー…」


すっかり忘れていたと言わんばかりの源田の返事に、“佐久間”と呼ばれた少年は不満げな表情を浮かべる。手に持っていた部室の鍵を源田に差し出すと、「忘れんな」と面倒臭そうに言葉を投げた。


「すまん、ありがとな」


源田の礼を聞くと、「あぁ」と短い返事をする佐久間。ふと彼の視線が源田の横にいた名前に向かう。


「…あ、ども」


視線に気づいた名前が小さくあいさつをするが、彼は少し首を動かして反応するだけだった。


「…じゃ」

「あぁ、お疲れ」


何事も無かったように方向転換をする佐久間。わざとなのか無意識なのか、彼は眼帯のある方を2人に向けて、最後は表情が見えぬままに去っていってしまった。名前はただそれを見送るしかない。呆然と立ち尽くしている彼女を見ると、源田はふぅ、と息をついた。


「すまん名前。ちょっと事務室行っていいか?」

「あぁ、りょーかい」


源田の声で我に返り、名前が返事を返す。心なしか名前の頬が赤い気がする。既に事務室に向かうため校舎へと歩き出している彼女の後を追うように、源田は受け取った鍵を一旦ポケットに入れて歩き出した。


「どうかしたか?」

「何が?」

「いや、別に」

「なんだよー」


いつもは源田の後をマイペースについて来るというのに、今日は我先にと源田の前を歩く名前。源田はその姿に違和感を感じながらも、気にしない事にしようと彼女の隣まで歩を進めた。


「いいよね眼帯」

「佐久間?」

「中学で眼帯って、先生もよく許可したなぁ」

「いや、許可は得てないんじゃないのか?」

「リアルであんなに眼帯似合う人なかなか居ないと思う」




(なんか言葉のキャッチボールが成り立ってない気がする)




名前は1人でぺちゃくちゃと独り言を言っている。どうやら完全に自分の世界に入ってしまっているようだ。いつもの事だと源田ははぁっ、と諦めのような短いため息をついて彼女が自分ワールドから帰ってくるのを待った。その間も彼女は何か言っている。反応を返さなくても怒らない辺り、既に源田の事は眼中にないらしい。





「佐久間君、かっこいいなぁ」





独り言の中で、ポツリと呟かれたその言葉だけが鮮明に源田の耳に届く。ズキンと心の奥が疼いた。驚いて名前を見るが、特に彼女に変化はない。どうやら趣味的な意味で言った事であって、特別な感情がある訳ではなさそうだ。一安心すると、源田は無意識にまた短いため息をついた。


「…幸次郎」

「ぉお、何だよいきなり」


いつの間にか名前は自分ワールドから帰ってきていたようだ。源田は焦って彼女に話を合わせようとするが、名前は一向に話を進めようとはしない。すると、名前がいつになく真剣な顔になる。源田は驚き息を飲んだ。


「…何だよ」

「幸次郎さぁ」

「……」












「ため息つくと幸せ逃げるよ?」












   





(誰の所為だと思ってるんだか)
























091128
やっとさっくんでてきますたんぐ。つかれたんぐ。
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