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「………初恋かぁ」



「…はぁ?」


彼女からは考えられない発言に、思わず俺は目を丸くして声を上げた。


「お前…何か悪いもんでも食ったのか?」

「失礼な。いくらあたしと仲いいからってレディにそれは無いんじゃないかな」

「レディってのは甚だ疑問だがな」


むすっと膨れる彼女の名は、苗字名前。俺の幼なじみである。いつもマンガかゲームを持っていて、そのジャンルの話になるといきなりテンションが上がったりする
―――所謂“ヲタク”だ。
その所為で、彼女は少しだけクラスから浮いていた、まぁ本人はその事を全く気にしていないらしいが。寧ろ無理に周りに合わせず、自分流に生きている事に誇り(そんな大層な物でも無いと思うが)を持っているらしい。
幼なじみと言うからには、こうなる前から俺は彼女を知っている訳で。だからこそ、彼女の性格についていけている面もある。彼女の同性の友達は、これまた浮いている漫画研究部の一部な為、一層彼女の異質さを際立たせていた。だが、だからといってイジメられている訳でも、わざと無視されたりする訳でもない。ただクラスメイトとして、特に仲良くしている訳でもない。という感じだ。



(何でまたそんないきなり)



彼女の青春には、“自らの恋”というものが存在しないらしい。全ては“趣味への愛”に注がれて、一般的な女子学生が夢見るような“恋”だの何だのと言ったものは全て素通り、というか掠めても居ない程に無縁。そんな名前が初めて発した“初恋”という言葉。俺は困惑せざるを得なかった。


「どんな風の吹き回しだ?」

「これ」


すっと机の中から取り出したのは、名前にしては珍しい、少女マンガ。


「お前始業式にまでマンガかよ」

「マンガ無いとあたし死んじゃうよ」

「昔はそんな事なかったのにな」


懐かしむように呟くと、昔は昔、今は今。と言い張る名前。その余りにも堂々とした態度に俺は呆れたように眉を下げた。


「でもお前にしては珍しいよな、少女マンガなんて」

「まぁたまには原点に戻ってみるのもいいと思って」

「へぇ」

「いやぁ、いつになっても乙女は乙女なんだね。1巻読む度に泣くわこの話」


わざとらしく目元を拭うと、そのマンガをパラパラとめくりだす名前。俺は何をするでもなくそれを見ていた。


「どんな話なんだ?」

「女の子の初恋の話」

「あーそれで」

「いいよねこういうの。なんつか、二次元だから出来る話だよね」

「分かってんなら羨ましがらなきゃいいだろ」

「全く幸次郎は乙女心を分かってないねぇ」

「そりゃ俺男だからな」


冷静に突っ込んでやるが、名前はただむすっとしてつまんない、と呟いた。


「………、…はぁ」

「……お前今一瞬何を躊躇った」

「…ちょっと言おうと思ったけど止めた」

「何を」

「何でもない」

「変なヤツ」

「元からですー」


ふて腐れたように机の上に腕を組むと、それに伏せるようにして顔を隠す名前。こいつ、寝る体勢に入りやがった。そう心の中で呟いて時計に目をやった。あと5分でチャイムがなる。


「なぁ名前」

「なんじゃ」

「今日俺部活早めに終わるんだが、一緒に帰るか?」

「一緒に帰る」

「了解」


迷いもない名前の返事に、表情の変化も無く答えて席から立つ。


「じゃあ俺席戻るから」


俺が言うと「ん、」とだけ返事して、名前は顔をあげずに手を振った。半分寝てるな、と呆れ顔になりながら俺は自分の席に着いた。
幼なじみの俺達に取って、一緒に帰る事は特に変わった行動では無かった。寧ろ日常的といっても過言ではない。………そう思っているのは名前だけなのだが。



(……最近マジでおかしい俺…)



完全に顔の見えない名前の姿を自分の席から確認すると、片手で顔を隠すようにして俯く。何と無く顔が熱い気がする。無意識に時計を見ると、秒針が音も立てず滑らかに動いていた。



(…早く部活終われ)



名前と帰る事をひそかに楽しみにしている自分に気付きながらも、恥ずかしさで気付かない振りをする。自分の思考を掻き消すように顔にかかった髪をくしゃりと掻き上げた。










   





(どうせ気付いてないだろうけど)
























091125
源田オチが望ましいですな(*´∀`)←不確定
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テーマ「人外ファンタジー」
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