Long | ナノ
「佐久間っ」
走り寄ると、キョトンとする佐久間。コイツが走るなんて珍しい、そんな呑気な事を考えてるんだろうか。
「どうした苗字、そんなに焦って」
「今、大丈夫?」
「もう部活終わった。なんでもグラウンド整備の関係で早上がりだって」
「…そっか」
かったるいよなー、なんて漏らしながら佐久間は誰も居なくなったグラウンドを見ている。整備の所為で明日は部活が休みな事を軽く説明しながらも、彼は部活が無いことに対してブーイングを続けていた。
「ていうかお前だけ?アイツは?」
「あぁ、幸次郎はまだ」
「災難だなアイツも。2日も部活出れない事になるなんて」
苦笑する彼からは、本当にサッカーが好きな事が読み取れた。いつもならつられて笑うけど、今日だけはそれもままならない。今この気持ちを伝えなければきっと一生、このままにしてしまうだろうから。
他の部員や、他の部活動のメンバーはもう帰ってしまったようで、グラウンドには彼とあたしだけが残されていた。
「なんか雰囲気あるよな、こうなると」
「何が…?」
「学校。人居ないとこんなに静かなんだなって」
今までこうやって眺めることなんて無かったからな、と呟きながら、佐久間は閑散としたグラウンドに目を向けている。確かに、人が居ない校庭は見たことがないかもしれない。部活動も盛んなこの学校では珍しい事だ。
「おっ、空綺麗じゃん」
「…あ、本トだ」
彼の言葉に上を見ると、オレンジと青が混ざって薄緑を作り出した空が広がっていた。散り散りになった雲が調度よくて、絵画を思わせる。写真でも撮れればいいんだけどね、何て小さく言ってみても、そんなものが手元にあるはずもなく。あたしは若干皮肉るように笑った。
「なぁ、お前泣いた?」
「…え、」
不意に真実を読まれ驚いて彼を見れば、頬に彼の手が触れる。日焼けで小麦色に似たその手があたしの頬を包むと、頭の中で先程のビジョンが蘇る。しかし、彼の手の感触は先程とは違い、女性を思わせる柔らかいものだった。
(佐久間の手ってこんなに優しいんだ)
始めて触れるその感触に驚きつつも、目の前にある彼の顔に動揺を隠せない。不機嫌そうに、表情を歪めている佐久間。そして間を開けてポツリと告げた。
「源田か」
「…」
「…やっぱり」
核心を突かれてが口を紡げば、佐久間はため息を零した。口にしないのは肯定したのも同然。今のは必死に否定すべきだったのかと後悔するが、そんなことをしても状況は変わらない気がした。
「お前がここにいるって事は、アイツ、フラれたのか」
「…、」
「なんか、どっちにしろいい気分じゃないな」
あたしの目元を優しく拭いながら佐久間は、さっきとは別の辛そうな苦笑を浮かべた。ああ、佐久間も幸次郎の気持ちに気付いていたんだな、なんて今更だと思いながらも、あたしは小さく考える。気付いてたなら言ってくれればよかったのに、そんな事を言ったらきっと彼はもっと辛い顔をするのだろう。多分、幸次郎も。
「佐久間」
「…何だ?」
彼に触れられてる頬が熱い。それはただ単に彼の手が暖かいのかもしれないし、あたしが恥ずかしいからなのかもしれない。でも、どっちでもよかった。なんとなく、彼の手があたしの気持ちを逃がさないようにしてくれている気がして、安心した。
「好きです」
つい最近まで一生口にしないと思っていた言葉。それを今平然と告げた自分にびっくりした。でも、それ以上に目の前の彼は驚いているようだった。心臓がバクバクする。それでも、彼の手の熱さは感じ取れた。
「まさか、今のタイミングで言われるとは」
「なんか、ごめん」
「いや、別にいいんだけど」
照れたようにそう言うと、佐久間は焦ったようにあたしの頬から手を離す。心地好かった温もりが薄れると、凄く久々に空気に触れた気がした。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
「え?」
「お前は俺が好きで、どうしたいんだ?」
あ、分かってるんだ。そう思った。
彼は真っ直ぐにあたしを見たまま、あたしの言葉を待っていた。
「あたしは、」
このままがいい。
「…言うと思った」
そして、眉を潜めながら晴々とした表情で笑う佐久間。自分でも突拍子のない事を言った筈なのに、まさか読まれていたなんて。驚いたのはあたしの方だった。
「何びっくりしてんだよ?」
「なんか…やっぱり佐久間って、幸次郎に似てるなって」
「なんだそれ」
「嫌だった?」
「いや、何と無く俺もそう思ってた」
告 白 彼 女
(それから彼は、好きだよって言った)
101017
久々!!長くgdgdしてしまった、よ!!