Long | ナノ
「いやぁ、参ったねーありがとう2人共」
呑気に感謝の言葉を口にする名前。何事も無かったような彼女の様子に、隣を歩く源田と佐久間は呆れた表情でそれを聞き入れている。夕焼けのオレンジに染まる空の下、いつも通り3人で家路に着こうとしていた。男子2人の間には名前。彼女的には何の違和感もない様だが、2人に取っては微妙な心境だった。
―――お前の事、応援する気ないから。
―――俺にも勝ち目はある。
お互いに相手の言葉を繰り返しながら、名前にばれないように顔をしかめる。彼女が鈍感で良かった。きっと他の人間ならばこの重い空気に気付いてしまう筈だ。
「それにしても佐久間ってモテるんだねー」
何気ない言葉。だが今の彼らには大きな亀裂を走らせた。ある意味ナイスタイミング、彼女はどうしてこうもタイミング良く状況を悪化させられるのだろうか、無意識とはいえ、2人の苛立ちを増幅させたのは確実だった。
「そんな事ないだろ」
「いやいやー、だってどう考えてもあの女子軍団は佐久間好きの集まりでしょ。ちょっと幸次郎派も居たっぽいけど」
「何でそんな事分かるんだよ?」
「女の勘?まぁ幸次郎がモテるのは昔っからだからね」
「…へぇ」
「そう考えるとあたしの位置って凄いのかも。そりゃ恨まれても仕方ないかな」
冗談混じりに笑う彼女に複雑な心境の源田と佐久間。極力口を閉ざしながら、2人は名前との距離をそのままに保ちながら進んでいた。
「―――…なんかさ」
間を開けて名前が再び口を開く。先程とは違う声色にふと違和感を覚える男子2人。自然と彼女に視線を向けると少しだけ俯いた彼女はぴたりとその場に立ち止まった。
「今日、2人ともおかしくない?」
「そんな事…―――」
「ケンカでもした?」
前言撤回。名前の勘を嘗めていた。確信をついた彼女の呟きに源田と佐久間も足を止める。いつだって彼女は知らなくてもいい事ばかり気がついて、自分から泥沼に嵌ろうとするんだ。
不安そうに2人を見る名前から反射的に視線を逸らす佐久間。一方源田は、彼女を見ながら申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「…幸次郎?」
「ゴメン名前、また今度ちゃんと話すから」
「え、何を…」
「俺、今日こっちの道通るから。気をつけて帰れよ」
「ちょっと、幸次郎!」
引きとめる言葉も聞かず、源田は曲がり角を曲がって去って行ってしまう。着々と小さくなっていく彼の姿を見送る事しか出来ない自分がもどかしくて、でも追いかけても意味は無い事ぐらい分かっている為、むやみに踏み出せない名前は、そのままの場所に立ち尽くしてしまう。
腑に落ちない彼の退場に俯く名前。佐久間はそれをチラリと確認した後、眉をひそめて口を開いた。
「…俺も帰るわ、じゃあな」
「佐久間!」
敢えて別の道を行こうと踵を返した佐久間に、名前は必死に声をかける。その声に2、3歩進んだ彼の足が動きを止めた。
「何で何も話してくれないの」
「…」
「何で何も言わないの」
「……」
「佐久間!」
半泣きのまま叫ぶ名前に背を向けたまま、佐久間は彼女の声を聞いている。今彼女に事実を言っても、暗に“お前の所為だ”と言っているようにしか聞こえないだろう。少なくとも彼女の性格を考えればそうだった。多分源田はそれを避けるために立ち去ったのだろうが、今となっては彼が居ない事によりさらに説明しづらい状況になっていた。
「あたしには言えない事なの?…」
「…」
「ねぇ佐久間」
「―――…ごめん、苗字」
今の佐久間には、この状況について謝ることしか出来なかった。今にも言ってしまいたい気持ちが喉まで来ているが、それを無理やりに抑え込む。今告げてしまえば、きっと彼女は傷ついてしまうし、もっと自分を追い込んでしまうだろう。その上、源田の事も裏切ってしまうような気がして気が引けた。
彼は源田が憎い訳ではない。それは源田に取っても同じはずだ。こんな曖昧な状況では尚更、友人を切り捨てるような事はしたくなかった。
「……佐久間…」
「…じゃあ、苗字も早く帰った方いいぞ」
静かにそう告げて源田とは別の道を帰っていく佐久間。何も言えずにそれを見送りながら、名前は唇を強く噛みながら悔しさに耐えていた。2人は何を隠しているんだろう。何故自分には言ってくれないのだろう。そんな暗い悩みばかりがぐるぐると巡る。
空の端はもう紺色に染まっている。それはまるで名前を追い込むように段々とオレンジを侵食していた。どうしようもなく無力な自分を恨みながら、名前はいつもの道を全力で走った。不安を振り切るように、涙が溢れるのを誤魔化すように、ひたすらに今の関係が壊れない事を願いながら。ただただ、必死に―――
真 相 彼 女
(居場所がなくなるのが怖かったんだ)
100702
こいつらの心理理解出来ない\(^O^)/恋なんてしたことない!二次元以外は!