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今日の体育は残念ながら男女別々だ。女子とは特に仲のよくないあたしは1人、壁に寄り掛かりながらただ呆然と授業終了のチャイムを待っていた。あと30秒。暇を持て余し、時計を睨みつけるようにして見つめる。あと20秒。座っていた腰をあげて集合した列に並んだ。先生が挨拶を促すと係がいつも通り怠そうに声を出す。それに沿って礼をすると丁度チャイムがなった。


(やっと終わった…次何だっけ)

「…うわ数学だ爆発しろ」


独り言をいいながら出口に向かう。前にはぞろぞろと煩く話をしているクラスの女子達。あの群れには入りたくないと本能が告げてあたしは瞬時に足を動かすペースを遅くした。


(早く進めバーカ)


暇で仕方ないあたしは内心物凄く口が悪い。否、普通に口が悪い。幸次郎によく言われるのだ、“その口は厭味しか言えないのか”と。そんなはずないんだけどな、と思うものの現に自覚してしまっては否定のしようが無かった。


(ゆっくり歩くのだりぃ…)

「名前!」

「………ん?」


後ろから高い声がしてあからさまに不機嫌な声を出しそうになりながら、幸次郎に対してじゃないんだから、と数秒躊躇ってから返事を返す。そこにはあたしのクラスと合同で体育をやっている隣のクラスの女子がいた。彼女とも中々話さないが、この前話し掛けてきた女子と同様にわざわざ苗字で呼び合う程仲が悪いわけでは無かった。


「…どしたの」

「いや、あのね」


おどおどとした彼女を見てイラッとする。早く用件言ってくれないかな。教室帰りたいんだけど。そう思っていると彼女に彼女と同じグループであろう女子が寄ってきた。詳しくは聞こえないが何かこそこそ話している。あたしはこうやって群れる女子が大嫌いだ。益々帰りたい気分でいっぱいになりながらあたしはその会話が終わるのを待った。


「………あのさ、」

「ご、ゴメンね名前待たせちゃって!あのさっ」

「…………うん」


あ、あたし表情で“早くしろよ”っていうの丸だしだ。そう気付くが止める気は無かった。だってそれが本心だったから隠しようがないでしょ。しどろもどろする彼女の姿を見てその友人が肩を叩く。早くしろよこっちは忙しいんだ(実際は暇ですけど)。


「…これ、佐久間君に渡してくれないかな…」

「…………なにこれ」


彼女があたしに差し出したのは薄ピンクの手紙だった。丸っこい文字で“佐久間君へ”と書いてある。あ、これはもしや


「ラブレターっすか」

「わざわざ言わないでよ恥ずかしいっ」


呆れた。このご時世にラブレターとか。直接言えよ直接!ていうか相手佐久間かよ。尚悪いわ。凄いムカムカする。なんだこれ。恥ずかしさを紛らわす為なのか焦って顔を隠す彼女。また苛立ちが募った。なんだよかわいこぶっちゃって。リアルでそんな事やっても可愛くねぇよ!なんて思っているのは秘密だ。実際の所は彼女は可愛いし。なんていうか、小動物系っていうか、目はくりっとしてるし髪も綺麗に整ってるしなんだか清潔そう。あたしとは大違いだな。…比較対象が違うか。


「……了解、渡してみるよ」

「ありがとう名前!」


断ってこれ以上印象が悪くなってもいい気がしない。あたしは取り敢えずその頼みを聞き入れた。にこり、と微笑んだ彼女はあたしの心とは裏腹になんとも可愛くてまたイライラした。じゃあね、と小走りで仲間と共に去って行く彼女を見送りながらあたしは複雑な心境だった。あたし1人がぽつりと残る体育館。手には彼女から預かった佐久間宛ての手紙。それを見ながらあたしは思考をぐるぐると巡らせていた。


(…………最近おかしいな…あたし)


最近“佐久間”の名前を聞くとドキッとする。彼と居ると今まで無かったぐらい楽しいしウキウキする。彼が居なくても無意識に彼の事を考えている自分がいる。そんな事今まで誰にもなかったのに、リアルではの話だけど。
彼女から手紙を頼まれた時に渦巻いた感情。苛立ちと焦燥、羨みと嫌悪。それは彼女に対してであり、自分に対してでもあった。どうしようもなくぐちゃぐちゃな思考。それを抑えようと取り敢えずあたしは教室に向かう廊下を歩み出した。


(……………あのマンガみたいだな)


冷静になったあたしがたどり着いたのは今読んでいる少女マンガだった。毎回感情移入してバカみたいに泣いていたりして(学校では無いけど)よく覚えている。知り合いに手紙を頼まれ戸惑っている自分の状況、彼に対する説明もつかないこの感情、全てが現実味の無いマンガの中の主人公が体験しているものと似ていた。記憶を遡る。この後主人公はどうなったんだっけ…――――


見えてきた鮮明な記憶、脳裏に浮かんだあの1コマを思い出して、あたしは思わず足を止めた。







(―――…あたし、アイツの事が好きだったんだ…)

















   





(そう心の中で呟いた言葉はチャイムの音に掻き消された)

























100119
短wwww思ったより遥かに短いwwww
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