The moon is so clear. 2 [ 9/9 ]
「鈴」
ドアを開けて入って来たダンテに一瞥した後、部屋の片付けに手を動かす。
その背にダンテが身を寄せ、腕が回された。
「鈴、好き」
「…………」
「大好きなの……」
手を止めて、ダンテと向き直る。
顎に手を当てて掬うと、その目は涙で濡れていた。
「泣くなよ」
「だって、鈴が」
「そうだな。俺が悪い」
涙をそっと指で拭った後、唇を重ねる。
ダンテとのキスは、とても甘い。
柔らかいそれを堪能した後、名残惜しさを感じながらも唇を離す。
気持ちの高ぶりを、口にしようとした。
しかし、喉の奥まで出掛かった言葉を、押さえ込んだ。
「……怖いんだよ。俺は」
額同士を合わせて、想いを言葉にする。
「伝えたら、お前を縛ってしまいそうで。俺よりもいい男ってのは、他にいっぱいいるんだ。そいつの所に行った方が、幸せになれる」
「そんなことない」
ふるりと、ダンテが首を横に振る。
「私はね、鈴と一緒にいることが幸せなの。鈴とハグすることが幸せなの。鈴とキスすると、胸が幸せでいっぱいになるの」
ダンテの形のよい指先が、頬に添えられる。
「愛しているよ、鈴。この世の誰よりも。何よりも」
「……お前、本当に、馬鹿だよ」
「馬鹿だから、鈴のことを好きになったんだよ」
「 」
目の前の女の子にだけ聞こえるように言って、再び唇を重ねる。
腕を彼女の腰と頭に回し、ただ無心に甘いそれを貪る。
薄目を開けると、彼女の白い肌は柔らかな光に照らされていた。
窓の外には、綺麗な望月。
キスに酔っている彼女にそれを教えるため、口を開いたのだった。
The moon is so clear.
(それは、君に伝える、愛の言葉)
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