「…んっ」


いつの間にやら眠っていたようで真城は、がばっ、と勢いよく伏せた机から起き上がった。
何かに覚醒させられたようだったが、何によって覚醒させられたのか分からないくらいには熟睡していたようだった。
ただぼーっと時計を眺めて、どれくらい寝ていたんだろう、と寝る前の記憶を辿る。

ピンポーン

しっかりと意識が覚醒した頃、呼び鈴がなっていることに気付いた真城は思わず立ち上がる。
夢うつつに聞いていたものだから、てっきり夢だとばかり思っていた真城は驚き、誰かと思案する。

時刻は0時を回っており、夜中に尋ねてくるような人物に心当たりがなかった。
鍵を忘れたシュージンが戻ってきたのだろうか、とあらぬ予想をしながらも訝しげに玄関のほうへ目を向ける。

だが、真城は急用だと悪いな、と間を置いて鳴る呼び鈴につられるように、急いで立ち上がり、玄関へと向かうことに決めた。


「どうした、シュージン?鍵でも忘れ…」
「来ちゃった。」
「…えっ?」


予想に反して、相方ではない声に驚く。
だが、聞き覚えのある予想外の声に思わず顔を見上げる。


「もしかして、寝てた?」


声の主、雄二郎は申し訳なさそうに、そして少しおかしそうに笑って、目を白黒させる真城にこう問いかけたのだった。


「ゆ、雄二郎さん!?」
「夜中にごめんね。」


突然の恋人の来訪に驚きつつも、大丈夫です、と返事をしながら部屋の中に雄二郎を入れる。
先ほどの電話の件といい、今日は突拍子もないことが多いな、と真城は不思議そうに雄二郎を見つめた。


「仕事忙しかったんでしょう?どうしたんですか?」


真城の問いかけに、先ほどまで申し訳なさそうに声を潜めていた雄二郎が目をぱちくりさせる。
そしてそのうち、どうしたって、と小さく呟きながら俯いてしまった。

急に俯く雄二郎の姿に何事かと目を凝らせば、震える肩に気付く真城。


「…どうして笑ってるんですか?」
「だって、きっと忘れてそうだな、って思って来てみたっけ、本当に忘れてるんだもん。」


真城の訝しげな問いかけに、笑いを堪えながら答える雄二郎。
思い当たる節のない真城はこてん、と首を傾げて思考を巡らすも、結局同じことだった。


「忘れてるって、何をですか?」
「やっぱり忘れてるんだね」


首を捻る真城の姿をさもおかしそうに笑う雄二郎に、少しばかり腹を立てた真城が、何をですか、と頬を膨らませて再び問いかける。
そんな真城の頭をそっと撫でた雄二郎は、ごめんごめん、と少しだけ嬉しそうに笑った。

真城はその行動に少し照れながらも、悟られまいと雄二郎から目をそらす。
そして、また僕を甘やかす、と密かに拗ねるのだった。


「その様子だと、俺が一番なのかな?」
「一番ってなんです?」
「うん?」


拗ねた真城をよそに、雄二郎は愛しそうに真城のやわらかい頬を撫でて、遅れてごめんね、とさらに笑みを深くする。

なにを、と問おうと口を開く真城。
微かに開く真城のその口を優しく塞いで離れて行った雄二郎の口はきれいな形を作って、こう言葉を紡ぐのだった。



「誕生日おめでとう」



雄二郎は真城の腰に手を回して、思い出した?と嬉しそうに笑った。
はい、と気まずそうに声を漏らした真城。

だが、それも一瞬の事で、思い出したように目を見開き、自らの口に触れる真城の震える指先。


「いっ、いま雄二郎さん…!!」


わなわなと震えて、顔を真っ赤にする真城の姿に、可愛いなぁ、と思わず頭を撫でる。


「子ども扱いしないで下さいよ!」


まだ顔を赤くしたまま怒る真城の姿に、雄二郎は苦笑いしながら、まぁまぁ、と真城を落ち着かせる。


「1つ差が縮まったんだし、少しくらい許してよ」
「雄二郎さんが良い加減、僕を甘やかすのをやめてくれたら…」
「それは無理。」
「えっ!?」
「だって、甘やかすのは真城くんが恋人、だからだよ。」


さらり、と告げる雄二郎の姿に、真城はかぁ、とさらに顔を赤くさせる。
だけど、どちらとも少しだけ嬉しそうだった事をお互いに見逃さなかった。


「雄二郎さんずるい!」
「えぇ!?真城くん!?」


たった1つだけ、では到底縮まりそうにもない差。
けれど、1つ1つ歳を重ねていく事が真城にとっては充分大きなことで。
かくいう雄二郎にとっても真城が段々と大人になっていくことは嬉しいことだった。


「俺はいつまででも待ってられるから、ゆっくり大人になっておいで。」
「はい!」





‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
来ちゃった、って雄二郎さん、普通それ彼女が言うセリ…げふんがふん!
年の差といえば雄最だ!と意気込んだはいいんですが、私が雄二郎さんに大人な対応をさせてあげられないことにもっと早く気づくべきでした…。
あと、雄二郎さん相手だとめちゃくちゃ真城くんがデレるのをどうにかしたいです。