急にサプライズパーティーに放り込まれた真城。
ただ単に、一緒に盛り上がりたいだけの相方と数人の年上たちを遠目に、原稿大丈夫なのかな、と心配になる。

そこで、はっ、とする真城は隣に座る新妻にこう声を掛けた。



「原稿大丈夫なんですか?」



連載作家である新妻は書くスピードに自信があるとは言え、忙しいことに変わりはないはずだった。

無理はして欲しいとは思わない真城は、疲労や忙しさを気にして、そう問いかけるのだった。


「マッハで終わらせて来たのでダイジョーブイです!」


だが、予想通りの返答に、流石と思う反面、無理をさせてしまった、と悔しく思う。
勿論、新妻のスピードは評価しているし、内容もかなり買っている。

だからこそ、自分が重荷となって無理はさせまい、と思っていた真城は、その返答になんとも言えなかった。


「そうですか。」


ただ、それだけを返して空の紙コップをくしゃりと潰してゴミ箱へと放り投げる。

綺麗な放物線を描いてゴミ箱へ入った紙コップ。
上手ですね、と褒める新妻にどうも、と苦笑。

忙しいだろうに、わざわざ自分のもとに来てくれた恋人。
忙しいことを顔にも、生活にも出さない人だけど、死んだように眠る事を真城は知っていた。

寝るか、食うか、描くかの三択しかない新妻の生活。

そこに割り込んでしまえることは真城にとって嬉しいことだった。

その反面、もどかしさにも似た面白くない何かを感じてしまう。
今日が誕生日であることすら悔しくて堪らないほどに。

贅沢だろうか、と苦笑を浮かべる。


「今日、来たくて頑張ったです!」
「…忙しいのにすみません」


申し訳ないことをした、と素直に謝る真城。
ただ、謝られた新妻は目をぱちくりさせる。
そのうち、首を捻り出して、何か考える素振りを見せた。


「どうしたんですか?」


堪らず真城は、様子を伺うように、怪訝な表情でそう尋ねる。

すると新妻は、それです、と急に真城を指差した。
驚いた真城は後ろに仰け反る。


「ボクは謝られたくて来たわけでも、そんな顔にするために来たわけでもないです」


そう言い切るや否や突如、距離を縮めてくる新妻の様子に、戸惑う真城。
だが、盛り上がりを見せるパーティーでは誰も気づく人などいなかった。

少しお酒が入っているのか、新妻はアルコールの匂いを漂わせて、ニヤリと読めない笑みを浮かべる。

何をされるか分からない真城は、距離が縮まるにつれて焦りを露わにする。


「新妻さん、どうし…んっ!」


だが、焦る真城とは裏腹にひどく落ち着いた表情を浮かべる新妻。


「んんっ…やっ…ちょっ」
「ダメです。」


逃れようとする真城を無理にでも押さえつけて、力が抜けるほどの長いキスを続ける新妻。
ようやく離した頃には、真城は息も絶え絶えだった。


「はぁ…はぁ…見られたらどうするんですか…!」



やり方が無理矢理だっただけあって、かなり暴れた真城は、急に周りを警戒する。
だが、新妻は誰も見てません、としれっと言い切った。


「見られてたらもっと長いのを…」
「わー!もう良いです!」


恥ずかしそうに焦る真城に、そうですか、とどこか腑に落ちない顔で、暴れだしそうな真城を軽く押さえつける。


「どうしたんですか?」
「何がです?」


急にキスをされた真城は、新妻にそう問いかける。
すると新妻は、今までの行動がなかったかのように、しれっと質問で返す。

えっ、と不思議そうな表情で新妻を見つめる。
考える事が分からない新妻の挙動に困惑した真城ななす術もなく、新妻の顔を見つめる。

その様子を見ていた新妻は、突如、あっ、と声を漏らして、真城の方を向く。


「言いたいこと、もうひとつあります。」


真城は、なんですか、と突発的にこちらを向いた新妻の言葉に、ほぼ反射で返事をする。


「今日だけ特別じゃなくて、真城先生だけ特別なんです!」


何を考えているのか、真城には未だに分からなかった。
だが、新妻には真城の何であっても知っていた。分かっていたようだった。

その事実は真城にとって悔しいことだったが、死ぬほど嬉しいことでもあった。

なんだか、あまりの唐突さに急におかしくなった真城は、クスクスと笑いだしながら、


「参りました。」


とだけ返した。
新妻は満足そうな表情を浮かべて、それでいいです、とくしゃくしゃに潰した紙コップをゴミ箱へ放り投げた。





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18日に書き出しました。すみません…。
とりあえず書かなきゃ、と思いながら、遠出した先で急いで書きました。
だから、内容がかなりぶっ飛んでますし、ぶっ放してます。

誕生日を祝えてる感は皆無ですが、新妻先生にがんばっていただいたので、免じてやってください…。←