どうしようか。 そう悩むのは決して悪い事ではないように思う。幼なければ、の話だが。
芽生えた感情に年甲斐もなく、狼狽えている自分がいる。 気付いたのはごくごく最近の出来事だったが、芽生えたのはきっとずっと前の事。
つまらない意地を張るのをやめよう、と決めたまでは良かったものの、それはそれで悩みの種と化しているのかもしれない。
「どうしたんですか?」 「…なにも」
秋。 夏期休暇が終わって暫くが経った頃。 真城は未だに大学に居座る福田に向かってこんな問いをした。
福田は、苦虫を噛み潰したような顔をしてふいっ、と遠くを見つめただけだった。
春の頃、卒業もせずに今年度も居座ると言った福田に向かって、真城は何も言わなかった。 一瞬だけ、怪訝そうな顔をしたものの、それは怪訝というよりも不思議、という方が近かった。
春休みが明けて再開したとき、卒業しなかったんですね、という真城の声には、不思議そうな感じの声がした。ただ、それは別段、福田を貶すような声色でもなかった。
未だに純粋に、なぜいるのだ、とだけを告げる真城の視線に、福田は苦笑が漏れるのが分かった。
「やり残した事があったから」
へぇ、と興味なさ気に生返事をした真城は福田のほうすら見ていなかった。 手頃な文献を手にとっては開いて、文章に視線を滑らす、その繰り返し。
その振る舞いに少しばかり、腹を立てた福田だったが、いつもの事だろうと、振り切るように首を振るう。 今はそのような振舞いの方が都合が良い。
いつかは、こっちを向いて貰いたい。そう思うものの、福田は出発点に到達してから、まだ一歩も進んではいなかった。 平行線の繰り返し。
それは怖いというよりも、分からない、といったほうが正しいのかもしれない。
されど、進まねば、と焦っている節のある福田。 焦る必要はないと分かっていても、大学院生であることに変わりはない。いつか、別かれてしまうのは分かりきったことだった。
止まる余裕も、戻る猶予も残されていない。
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