蒼樹がひょい、っとカバンの中から本を取り出し、これ知ってます?と聞いてきた事が全ての始まりだった。



「あぁ!それ最近人気の雑誌!」


流行り物に敏感な香耶が蒼樹の手にする雑誌をすかさず指差し言い当てる。
それは当たっていたようで、気分がよさそうに蒼樹は、そうです、と微笑んだ。


「青木先生、その雑誌がお好きなんですか?」


急に浮上した話題に紅茶を啜っていた岩瀬が少しばかり訝しげに蒼樹に問いかける。
そうすれば、これ結構有名なんですよ、と亜豆がフォローを入れた。

岩瀬は少し腑に落ちない様子だったが、そうですか、と雑誌をまじまじと見つめはじめた。
それに釣られるように亜豆も雑誌を見つめ、少しばかりほくそ笑むように笑みを深めた。


「私が買ったのではなく、生徒から貰ったんですけど…」


岩瀬の反応に少しばかり気圧されながらも、蒼樹は雑誌を丁寧な所作でテーブルに置いた。
ぺらぺらと音を立ててページをめくり始める。
目的のページがあるかように。


「それすごく当たるんだよねー!」


すると、少し興奮気味に香耶が身を乗り出し、蒼樹に同意を求める。
もう既に実証済みなのか、蒼樹は少し照れくさそうに、えぇ、と肩を竦めた。


「当たるって何?」


ここでやっと真城が口を開く。
女の子が興味あることにはあまり興味ない真城が興味本位で口を挟めば、待ってました、と言わんばかりに、


「「占いです!」」


と蒼樹と香耶が声を揃えて、すかさず答えた。
ポーズまで揃うほどに珍しく息の合った2人に、真城は聞かなきゃ良かった、と思うのだった。

なんだか嫌な予感がする真城は、どうやって切り抜けようかな、とポーカーフェイスを保ちながらも思考をめぐらせる。


「…占いなんてどうせ統計学だと思いますけど」
「まぁ、相手の心理を読んで当たり障りない事を言う占いが最近の主流になってますしね」


すると、論理的かつ文系的頑固者である岩瀬と、説得力と笑顔の圧力の塊りである亜豆の反論に少しばかり食い下がる蒼樹と香耶。
思わぬところからの強力な助っ人登場に、不意打ちながらも安堵する真城。

だが、ここは面白いもの好きの亜豆である。


「手始めに岩瀬先生、やってみたらどうですか?」


という爆弾を投げ込むのだった。


「えっ!?」
「1993年5月8日生まれのイニシャルはA.Iですね」
「ちょっ…」
「へぇ、歩く百科事典かぁ…」
「ふふっ、結構当たってますね」


亜豆の一言にさっさと勝手に占いを始める2人。
仕舞いには楽しそうに結果を呟いてしまうのだった。
流行り物好きでかなり押しの強い香耶と、のめり込むと中々戻って来れない蒼樹のタッグは思っている以上に岩瀬を困惑させるらしく、


「勝手に私で占うのは…!」
「「押しの強いアプローチは相手に負担をかけてしまうので気をつけよう、ですって。」」


と、岩瀬を意図も簡単に丸め込んでしまうのだった。

真城はそんな3人の忙しないやり取りに、元気だなぁ、と蒼樹の淹れた美味しい紅茶を啜って、亜豆の焼いた美味しいクッキーを頬張った。
女性同士特有の勢いに押されながらも、どこか遠くからその様子を眺めているのだった。


「真城先生は1994年2月18日生まれですよ。」


なんとか3人で盛り上がってくれ、とこそこそとしていた真城だったが、そんな真城を亜豆が見逃すはずもなかった。


「頑張り屋だけど自己中心的ですって」
「…冷静で賢明かしら?」
「あぁ、真城らしい!」


と今度は3人で話題の中心を真城にシフトチェンジしてしまうのだった。
ただ、真城は反論する余地もないと判断したのか、はいはい、と結果を早急に
流してしまうのだった。
正に冷静で賢明な判断、である。


「次は恋愛の方ね!」
「僕は全然その辺は関係ないけどね」
「まぁまぁ、聞くだけ聞いておけばいいんだよ」


流石に必要ないところは時間を割くのがもったいないと省いて貰うことを試みるも、結局は亜豆に宥められる結果になってしまった。
真城は押しに弱いのか、亜豆に弱いのか、自分でも分からなくなってしまったのだった。

はぁ、と真城は1つだけの小さい溜息をつく。

自分にはいまだ必要のない『ソレ』について聞いたところで、何になると言うのか。
『ソレ』は何のアドバイスにもならない事を真城は残念ながら、心得ていた。

残念ながら、というところがポイントだという事に真城は気付いていないようだったが、誰もそのことについて触れようとしなかった。



「鈍感なので早く気づくように…」
「運命の人は貴女のすぐ近くに!」
「ですって。」


その結果を聞いて、良かったね、とよく分からない同意を求める亜豆に、そうだね、と真城は心にもない返事をする。

3人は誰よ誰よ、と騒ぎ立て、真城はまた言わんこっちゃない、と溜息を吐くのだった。







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友達と女子会をしたので参考にしようと内容を思い出したんですが、こんなかわいい感じの内容にはならなかったです。
占いできゃっきゃっする女性の方々ってこんな感じでいいんでしょうか…?

2012/02/06