「3の三角だな」 「3の丸だと思いますです」 「3ですね」
はーい、じゃあ3で決定ー。 とだるい声を上げてメモ用紙に書き上げていく。
じゃあ、こいつは? と福田が新しい紙を引っ張り出してくる。 そして秋人と新妻がうーん、と悩んだ声を漏らす。
「悩みどころです」 「確かに盲目的だもんな」 「頑張り屋ではあるんですけどね…」
うーん、と3人でまたもや声を漏らす。 そして首を捻り、福田は持ったペンをくるくると回し始めた。
「「なにしてるんです?」」
そこへ通りかかる、校内随一の鉄壁を誇る蒼樹と、色恋沙汰とは無縁そうな真城。 昼食を一緒に取ってきた様で、声を揃えて職員室へと入ってきた。
少しばかり秋人はうろたえる仕草を見せたものの、新妻と福田は動じた様子もなく、
「成績表つけてんの」
と返事をした。
蒼樹はそうですか、と興味なさそうに返事をして真城と一緒に立ち止まった。 ただ、真城は秋人の挙動をあやしいと踏んだらしく、更に食い入った質問をした。
「何のですか?」 「何の、ってこの間のテストのじゃないんですか?」 「福田さんがいて普通の成績表なわけがないです」 「ひでぇ」
真城の的確ともいえるツッコミに、傷ついた様子も見せない福田は、にやり、と笑っただけだった。
ただ、真城の鋭い指摘に堪忍したのか、メモ用紙をピラリと真城のほうへと向けた。
「あ、福田さん!」
秋人はうろたえながら福田の差し出したメモ用紙を奪おうとする。 だが、真城のほうが少しばかり動きが早く、それはかなわなかった。
メモ用紙を眺めたまま蒼樹は、これは何です、と首を捻った。 が、内容が分かった真城は目を細めて3人に視線を送った。 勿論、冷たい視線、なのだが。
「女性教員成績表、ですねこれは」
ご名答ー、と福田がこれまたニヤリと真城に笑みを送る。 福田はただ2人の反応を楽しみたいだけ。
だが、秋人はどうにか弁解したいらしく、意味の分からない挙動を繰り返していた。
未だに意味が分からない、と言いたげな蒼樹に向かって、真城がメモ帳を指差して説明を加え始める。
「女性教員に5段階評価で成績をつけるんですよ。勿論、学力ではなく、ルックスとキャリアと性格で。」
すると、蒼樹は顔を赤くしたまま、これだから男性は、と3人を一瞥した。 そうして、蒼樹は早々に自分の机へと戻っていってしまった。
なんとか弁解したい秋人は、違うんです、と言いたかったのだが、「ち」の音を発音しただけで結局、弁解の余地はなかった。
「蒼樹嬢はダンゼントップだな」 「抜かりないですー」
はぁ、と同僚に軽蔑された事へのショックを露わにする秋人。 それに対して、真城は小さく笑うと、秋人の隣に腰掛ける。
「シュージン先生も男らしくないですね」
秋人の落とした肩の先に差し出されるのは、原因となったメモ用紙。 そしてそれを差し出す真城の姿。
「サイコー先生?」 「だって、隠そうとしてるってことは『やましい』って知っててのことでしょ?なら、むしろ隠すほうが印象悪いです。」
きっぱりと言い切ると満足したのか、真城は他の教員の成績が事細かに記されたメモ帳を見始めてしまった。 未だにわけのわからなさそうに呆けた表情をする秋人を放っておいて、当たってる、とクスクスと笑う始末。
「あ、ちなみに高木秋人先生は3の三角に格下げです。」
真城の一言がきっかけとなり、「男性教員成績表」なるものが影で作成されるようになったのは後のお話。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ させたかったエンドと違う…だと…!? 本当は伏線を張る予定だったんですけど、結局秋人が不憫になっただけでした。
2012/01/20
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