「これは何ですか?」


ぴらり、と3枚の紙を見せびらかすように目の前に曝し、怒りを露わにする男が1人。
その男の姿に目をパチパチと瞬かせる男2人と女1人。


さらにピラピラと紙をなびかせて、男こと秋人は仁王立ちを続けた。
かくいう男2人こと、福田と新妻は少し首をかしげて、秋人の動向を窺っている。
紅一点である真城といえば、チラッ、と見ただけで作業に戻ってしまった。


「サイコー先生?」
「…はい」


いくら甘やかしているとはいえ、そんな真城の行動を見逃せないほどに秋人は困惑し、怒り、そして少しばかり呆れていた。

秋人は深い溜息を1つだけし、未だに首を傾げる3人に向かって、もう一度言います、と前置きをした。


「これは何ですか?」
「「「テストです」」」


見事に声を揃える3人の声に秋人は毒気を抜かれる…
はずもなく。


「そうじゃなくてですねっ!」


と更に声を荒げる結果になってしまったのだった。

だが肝心の怒られてる本人達には、あまり響いてないようだった。
あちゃー、と真城は声を漏らし、はいはい、と福田は返事をし、新妻は耳を塞いでいた。

実を言うとこの3人、秋人の説教には慣れっこなのである。



「今度は何に対して怒ってるんですか?」


だが、これじゃあ埒が明かないと判断したのか、唯一の良心である真城が確信に迫る質問をする。
秋人はそれに対して、見てください、と紙を3人の前に差し出し、そして問題の場所を指差した。


「英語のテストの問題、リスニングオンリーってどういうことですか?」
「今回文法やって無いんですー」
「じゃあ、保健体育のテストの実技オンリーは?」
「保健の授業あんまなかったから次に範囲回す事にしたー」
「…サイコー先生!!」


あまりにも適当な回答達に堪忍袋の緒が切れた秋人は、即座に真城へとシフトチェンジを試みた。
助け舟を頼む事も兼ねて、だが。

対する真城はと言えば、何ですか?とひどく落ち着き払った様子で秋人の続きの言葉を待った。


「この好きな物を描け、とは?」
「デッサンのテストです。」
「見れば分かります…」


先ほどとは打って変わって、呆れた様子を露わにし、肩をがくりと落とした。
そして、そうじゃなくてですね、と本日何度目かも分からない弁解の前置きを口にした。


「どうして、好きな物、の大半が貴女なんですか、サイコー先生!?」
「そんなことで怒らないで下さい!!」


そうしてこの秋人の説教はあっけなく終了したのだった。

なぜ秋人はこんなにもすぐに説教をしたがるのか。
ただ、何かと仲の良い3人に秋人は食って掛かりたいだけのなのである。

そんな心境を悟ってか、職員室はお茶を啜りながらそれを眺めるのが日常茶飯事になってしまっていた。


平和ですね、と誰かが呟けば、そうですね、と返事が来る。

そんな職員室の話。





‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
いつもわいわいやってる3人が羨ましいと思いつつも、素直になれない秋人先生のお話。
どうやっても秋人先生が精神年齢低めになってしまいます…。

2012/01/15