「勉強会を開きませんか?」


と提案してきたのは真城のクラスの学級委員長であった。
普段から真面目な彼女の頼みだったことも手伝って、真城は2つ返事で承諾したのだった。


「やるのは放課後だとして、教科はどうしよう」



だが、いかんせん、真城の担当教科は5教科から外れている。
その上、美術のテストはすこぶる簡単なことで有名なので、真城に教えられることは数少ない。
真城自身が5教科を教えても良いのだが、残念ながら真城にはその自信がなかった。

それが、現在真城の悩んでいる原因だった。


「はぁ…」
「どうかしましたか?」


真城の正面から心配そうな声が聞こえた。
真城の溜息にいち早く気付いた男に向かい真城は、あぁ、と溜息にも似た返事をして、平丸先生、と名前を呼んだ。


「テストに向けて勉強会を開いてくれ、って生徒に頼まれたんですけど…僕担当教科以外はからっきしで…」


苦笑を浮かべながら頭を軽く掻く真城。
そんな真城の姿に平丸は少々顔を赤くしながらも、そうですか…と呟いた後、黙り込んでしまった。

「平丸先生?」


急に黙り込んだ平丸の顔を訝しげに覗きこむ真城。
そんな真城に向かい、平丸は非常にキメた声で、


「真城先生」


と真城の名を発したのだった。
急に名前を呼ばれた真城は少し驚いた仕草を見せながらも、疑う事無く、はい、と返事をして次の答えを待った。

そうなるとペースは完全平丸のものになり、少しばかり調子に乗った平丸は更にキメた顔で真城の手を握ったのだった。


「そういうことなら僕が講習を…「そういうことはW服部に頼むといいよ。」…します…」


だが、思わぬ刺客により、平丸の計画は脆く崩れ去る事となった。
平丸の隣に座る、平丸の教育係こと、吉田である。

真城はちらりとW服部こと、雄二郎と服部に目をやる。
だが、真城は吉田の提案に、こてんと首を傾げるばかりであった。

意味がわからない、と言いたげな真城の仕草に少しばかり目を細めながらも、吉田は理由を述べる。


「あの2人はかなりの万能器用貧乏だから」
「へ、へぇ」


吉田の提案の理由に真城は苦笑いと共に、なんとも言いがたい気まずさから、空返事をした。

ただ、吉田の案は彼女の中で通ったようだった。
膳は急げ、といわんばかりに、即行で雄二郎に声を掛けに行く真城。

平丸はその背中と自らの隣に座る副担任の顔とを交互に眺める。
そして、平丸はわなわなと震え出してしまったのだった。

半泣きの顔を露わにしながら。



「どうして止めたんです、吉田氏ィ!」
「だって平丸君も数学以外からっきしじゃないか…」







‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
勉強会って生徒の話じゃん…
先生ってどうすれば…
と激しく悩んだ挙句、平丸先生が残念な人になってしまいました。すみません…。

12/01/14