文化系といえども、ジャージが必要な時もある。

自慢の洋服や制服が汚れてしまうのが忍びないのは誰だって同じ事。
ならばいっそ、その格好良くキメた服装を取り払う方が賢い判断だ。

動きやすく、洗濯が楽。
汚れてもこれならば気が引けないのは、値段によるものか。はたまた身軽さによるものか。


何はともあれ、ジャージは文化系にも欠かせない逸品と言える。

美術なら特に。




「…忘れた。」


ジャージに関して散々、力説してきた真城。
真城は美術部の担任であり、教師陣の中でもジャージが欠かせない数少ないうちの1人だ。

そんな真城は困ったな、と首を捻る。
何か変わりになるものがあれば良いものの、そんなものが都合よくあるはずもなく。


「ジャージ忘れた…」


と呟いて、1人静かに撃沈した。







すっかりしょげて萎縮した真城は、今日ばかりは仕方がないか、と覚悟を決めて部活に挑む事にした。

ラフを沢山描いたはずの大学ノートを手に取り、白いカーディガンなんてやめておけば良かった、と今更後悔にため息。


「…あ、」


ただ、当てが1人いることを思い出した真城は、あの人なら、と確信を持ってノートを机の上に戻した。




「…という訳なので、すみませんがジャージ貸して下さい。福田先生。」
「…ごふっ!?」


飲んでいたコーヒーを机の上、一面にぶちまけた。
高木が。


「…げほげほっ」
「大丈夫ですか!?」
「原因は真城先生だろ」

驚きで吹き出し、その上コーヒーが喉へ一気に押し寄せてきたので、情けなくもむせかえる高木。
かくゆう当の本人、福田と言えば呆れはしたものの、さして驚いた様子も見せなかった。



「…洗濯して返せよ」
「福田先生、貸しちゃうんですか!?」


仕方ないと言いたげに渋々と福田は自分が今の今まで着用していた、上のジャージを真城に差し出す。
男女の同僚の関係として、常識を逸脱していると突っ込まずにはいられない高木だった。



「ありがとうございます!」
「真城先生も素直に受け取らないでください!!」


そんな高木の突っ込みは虚しくも2人には届くことはなかった。
もう一度、つい突っ込んでしまうのは、この場に居合わせた高木の宿命とも言える事だろうか。






「…次からは気をつけろよ。」
「反省してます…」
「次からは、ってこれが最初じゃないんですか!?」




高木は男女の同僚の関係として常識を……以下略。









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真城は福田を男として見ていないから、福田は真城への親切から、この貸し借りは成立します。
報われない福田さんってなんだか好きです^q^←

11/02/25