2,3日前から体がだるいなとは思っていた。食欲も湧かずに無理矢理ご飯を押し込んでいた。でもまあ調子が良くないのはいつものことだし、そんなに気にする必要はないだろうと思っていたらインフルエンザにかかっていた。

「…あー」

体が思うように動かなくて辛い。食べることさえきつい。火照った体が恨めしくなる。気持ち悪くて頭痛が酷くて、早くこの状態から抜け出したい。なんでこんなに辛い思いをしなくちゃいけないんだろう、と言いようのない思いが込み上げてきて泣きそうになる。誰が悪いわけでもないのに、寧ろ体調管理をきちんとしていなかった自分が悪いのに、なにかに当たらなきゃ気が済まない気持ちだ。

「さびしい…」

一人、布団の上で寝るのは構わないが、あたしがインフルエンザにかかったと分かった途端、家族がまるで隔離するかのようにあたしを扱う。ご飯も一人で部屋で食べた。仕方のないことだとは思う。病院でだって、インフルエンザだって診断されたあとはお会計するまで待合室ではなく診療室で隔離されて待たされた。感染力の強い病気だから当然のことなのだろう。

友達と遊ぶ約束をしていた。サークルのみんなで飲みに行く約束もしていた。それも全部キャンセルすることになる。みんな心配してくれて、気にするな、とか、しょうがないよね、と言ってくれる。しょうがないんだけど、寂しい気持ちでいっぱいになる。

ずっと一人でゴロゴロしていても退屈なので携帯を弄ってひたすら遊ぶ。前のメールなどを見返していると、彼からのメールが目に入る。そこで、あたしはようやく彼とも約束をしていたことを思い出した。急いで連絡しなきゃとアドレス帳から彼の名前を探し、電話をかける。2コール目で彼は出てくれた。

「はい」
「もしもし?総司?」
「うん、どうしたの?」

総司の声を聞いた瞬間、思わず泣きそうになった。優しい彼の声に、あたしはどうしようもなく安心感を覚える。

「総司、あのさ、」
「うん」
「あたし、インフルエンザになっちゃった」
「え?そうなの?」

大丈夫?と心配そうに声をかける総司に、あたしは今すぐ会いたい衝動に駆られる。でもダメだ、あたしはインフルエンザなんだから今家を出ちゃいけない。

「今日病院に行ってきたんだけどね、最低でも2,3日は外に出ちゃいけないって。だから明日、総司と会うことができないんだ。ごめんね」
「いや、大丈夫だよ。治すことの方が優先だしね。今、具合はどう?」
「薬もらって、熱は取り敢えず下がったよ。でも、体はまだだるしい、なんか関節が痛い」
「そっか。ちゃんといい子にして寝るんだよ?」
「子供じゃないんだからそれくらい分かってるよ」

総司はこうやって、たまにあたしのことを子供扱いする。もうお互いにいい年なのに、総司の方が年下のくせに生意気なことばかり言う。でも、今はそれがひどく安心する。

「…総司」
「なあに?」
「さびしい」
「…え?」
「さびしいよ、総司に会えなくて」

声だけじゃ満足できない。今こうして話しているだけでもモノ足らない。今すぐ会って抱きしめて欲しい。もう大丈夫だよってキスして欲しい。総司の顔をこの目ですぐ見て確かめたい。

「さびしい…」
「うん、僕も会えなくてさびしいよ。だからさ、」
「うん」
「治ったらうちに泊まりにきなよ。それで、いっぱいイチャイチャしよ?」
「…うん、そうだね。総司にいっぱい甘えたりしたい」
「僕も、たっくさん甘やかしてあげたい。だから、ちゃんと治すんだよ?楽しみにしてるからさ」
「うん、頑張って早く治すよ。そしたら、いっぱい抱きしめてね。キスも忘れないでね」
「うん、分かった」

思わず小さな笑みを零した。普段のあたしなら、こんな会話は絶対にしないだろう。インフルエンザで弱ってるからかな、それともいつもより優しい総司の声のおかげかな。なんだか今は素直に総司に甘えられてる気がする。

「そうと決まったらもう寝る!ありがとね、おやすみ」
「うん、おやすみ」
「あのさ、明日も電話していい?やっぱりさびしいからさ」
「もちろんいいよ、今度は僕からかけるね」
「分かった、待ってる」
「それじゃあ、」

おやすみ、という声とともに電話越しにリップ音が微かに響く。あたしは思わず目を見開いた。

「総司…?」
「早くよくなるおまじない」

にっこりと、見なくても分かるくらい笑っている総司の姿が目に浮かぶ。全く、彼には本当に適わないな。

「…おやすみ」

柄にもなく、あたしも電話越しにキスをして通話終了のボタンを押して布団に潜り込む。今夜はゆっくり寝られそうだ。





かなわない
--------------------
20120206
こんな風にしてくれる彼氏が欲しいです。というか総司みたいな彼氏が欲しいです。
そうです絶賛インフルエンザなのはこのあたしです←

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -