「あ、榛名だ」

あたしの声に気付いた巨体が正面を見据えた。こちらを視界に捉えた瞬間、おーと声を掛けてくれる。廊下でまだそれなりに離れている距離を、あたしは小走りで近付いた。

「今日部活は?」
「監督の都合で休み。今お前んとこの教室に行こうと思ってたところ」
「え、なんで?」
「…たまには一緒に帰りたいとか思っちゃいけねーのかよ」

そういって口を尖らせ途端に不機嫌になってしまう。いつもは榛名が部活だから一緒に帰ることは滅多にないのだが、そうやって野球ばっかの頭のなかにあたしのことを少しでも考えてくれる彼に嬉しくなった。しかしそんな榛名がとっても可愛らしくて、ダメだと分かってても思わず吹き出してしまう。

「んだよ!文句あっか!!」
「んーん、嬉しいだけ!」

ならいいけどよ…と尻すぼみになる彼は、なんだか今日はいつもより一層可愛いく見えて仕方がない。まあでも、そんなことを口に出したら怒られることは目に見えてるので心のなかだけで呟いておく。

「どっか行きたいとこねー?」
「あれ?帰って自主連しないの?」
「…お前は、オレとデートしたくねーのかよ」
「で、でーと?」

今、榛名の口からデートという言葉が聞こえたのだが気のせいだろうか。しかし横に並んでそっぽを向き、拗ねる彼の髪の隙間から覗く耳の赤さが一目瞭然で。その恥ずかしさが伝染するのを感じながら、あたしは取り敢えず榛名の家に行きたいと途切れ途切れに告げた。

その言葉にこちらを向いた榛名の顔は、嬉しいような、怒ったような、なんともいえない複雑な表情をしていたものだから、とうとう耐えきれず可愛いなぁと声に出してしまったあたしは、きっと悪くないと思う。






逢瀬への誘いかた
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20110303

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