「たーいちょ」

穏やかな空気の流れる昼過ぎ時。静かな個室に響く甘ったるい声がおれを誘惑するように体の芯を淡く刺激する。一人にしては少し大きいベッドの上で寝転ぶおれの上に、声の主は覆い被さっていた。すりすりという擬態語が正に適当というように、自分の背中に頬を擦り付けるさまはじゃれた犬のようである。

「んふふ、たいちょー」

幸せそうな声色におれはなにも言えず、このまま寝ようか寝まいか考えていた。きっと彼女は、おれがこの後どうしようがしまいが気にもしないだろう。そういう奴だ。だが、その無邪気さの陰に狡猾さが潜んでいるのをおれは知っている。

「エース隊長、」

嬉しそうにおれの名を呼ぶ彼女は部屋に入るなり、昼寝をしていたおれに突如として飛びついてきた。そのままされるがままの状態で、一体どれくらいの時間が経ったのだろう。いつまでもうつ伏せになっている自分に、そろそろ息苦しくなってきたところで彼女の口から吐息が漏れる。

「…あったかい」

だが、なんてことはないその一言に、どうしてかおれは目敏く反応してしまった。

「…お前は、あったかけりゃ誰にでも抱きつくのかよ」

いって、すぐにしまったと思う。それが幾ばくかの八つ当たりが混ざったものだということに気づいたからだ。



いつだって愛想のいいこいつは、船内の誰からも愛される。それが自分には誇らしくあったが、彼女に少しでも触れる野郎共がどうしても許せなくて。それを拒まず受け入れるこいつにも、おれはどうしようもない嫉妬をしていたのだ。



それまでぴったりと背中に張りついていた彼女が、徐に体を起こすのが分かった。おれもそれに倣うように上体を起こし、彼女と向き合うように体の向きを変える。きょとん、とした大きな丸い瞳をいくらか瞬かせ、こちらを見る彼女と目が合った。途端、花のような輝かしい笑顔でこいつはふんわりと笑う。

「…あったかくて、気持ちいいのは。エース隊長だけ」

その言葉に、艶然に、嗚呼おれは一生こいつに適わないなと思った。それでも、おれを見つめながらにこにこ微笑み続ける彼女に悔しくなって、弧を描くその可愛らしい唇に噛みついてやった。




つたないキスをひとつ、
(君に送ります)

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101105
今日の通学中に突如として思い浮かんだネタを講義中に書きあげたもの←
こういうヒロインを書いたのは初めてかも。振り回されるエースも悪くないなと思って書いたんです(まがお)

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