「ねぇ準太、見て。雪が降ってるよ」

そう言って降ってくる白い雪を見上げながら、手を掬うようにかざす彼女。暗い夜道の中、バイト帰りの彼女を迎えに行ったオレはその光景をぼんやりと見つめる。返事をしないオレを彼女は気にせず、頭に積もっていく雪も憚らず嬉しそうに目を細め微笑んだ。こんな風に笑う彼女を見るのは珍しい。

「今年の初雪だね」
「そうだな」
「準太は無関心だなぁ」

先立って歩いていた彼女は後ろを振り返り、少し拗ねたようにオレを見つめた。オレはその1つ1つの仕草に心奪われながら、それを顔に出さず彼女の頭をポンっと叩く。

「はしゃぐのもいいけど、傘ぐらいさせよ」
「えー、せっかく雪が降ってるのに勿体ないよ。今は温暖化の影響で、なかなか見ることはできないんだからねっ」
「だからって頭に雪のっけたまま言われてもなぁ」

そう。彼女は最初こそ紺色の傘をさして、その上に積もっていく雪を楽しんで見ていたけれど、急に傘を畳んで降りゆくなかを歩き出したのだ。最初は呆れて見ていたオレだが、さすがにそろそろ風邪をひくのではないかと心配になり、そっと自分の傘に入れてやる。しかし彼女は依然としてむっとした表示を隠さなかった。

「準太は雪好きじゃないの?」
「嫌いじゃないけど、お前ほど好きでもないな。グラウンド使えなくなって野球できないし」
「…準太らしいね」

先ほどのようにまたふっと微笑む。今日の彼女はどうしたのだろうか。いつもはもっと無愛想なのに、今日はやたらと目を細め笑顔を見せる。

しんしんと降っていた雪が、突然吹いた風と一緒になって頬を撫ぜた。一段と寒くなった体温に、思わず躯が身震いする。オレは隣に立つ彼女に声を掛けた。

「風吹いてきたし、早く家に帰ろうぜ。今日は泊まってくんだろ?」
「うん。もう夕飯食べた?」
「や、まだ」
「なに食べたい?部屋の窓から雪を見て食べる鍋も乙だよね」
「こんな時間から鍋かよ。冷蔵庫に材料あったっけなぁ」
「なに言ってんの。昨日買い出し行ったばっかじゃん」
「あー…そうだっけ」

話ながら、どちらからともなく繋がれた手を軽く振って、次々と鍋の具を決めていく。ふと、手を繋いでない方の、傘を持っている左手に付けている腕時計を見やれば、日付が変わろうとしていた。もう先週から春休みなオレ達には、明日を気にして時間を過ごす必要はないだろう。オレの部活も、彼女のバイトも休みだし。

漸く視界に映り込んできた自分のアパートを目にしたところで、あっ、と彼女が小さく声を上げた。視線を横にずらし、顔を覗き込めば彼女も同時にこちらを向いた。近距離で見つめ合う形となり、思わず心臓がドキリとする。

「24時過ぎた」
「は?あ、ああ、うん。それが?」
「2日になったんだよ?」
「…え、別にいつも通り日付が変わっただけだろ?」
「バカ!準太の誕生日!!」
「…あぁ」

そう言えば、彼女が明日バイトないのってわざわざオレのために休みを取ったからだった。なんだが他人事のように自分の誕生日になった事を実感して、反応が遅れた。そんなオレを見て、目の前で溜め息をつかれる。

「…なんで準太って、そう自分の誕生日には興味ないかなぁ」
「や、だって1つ歳を喰っただけだろ」
「あたしの誕生日にはいろいろしてくれたのに」
「そりゃ大事な彼女の誕生日だし」
「あたしにとっても彼氏の誕生日は特別なの!」

ふんっ、と鼻息荒くし繋いでた手を振り切って、傘から飛び出した彼女。一拍おいて反応が遅れたオレは、慌ててその後を追いかける。

すぐに追いついた彼女の腕を掴んだオレは、そのまま勢いにまかせ自分の胸へと引っ張り込んだ。むがっ、と彼女は可愛くない声を出して、ぶつかったであろう鼻の頭を痛そうにしている。そんな彼女に構わずオレは両腕でぎゅっと抱きしめた。そのためオレの黒い傘がパサッと手から滑り落ち、道端に転がる。人通りの少ないこの道は、今オレと彼女の二人きりだ。

「悪かったよ。嬉しかったって」
「…ホントかなぁ」
「ホントホント。んでプレゼントは?」
「さっきの今でプレゼントを要求する?」
「だってオレの誕生日だろ?」

確かに…、と小さく呟き彼女はオレの胸に顔を埋める。なんでコイツはいつもいつもオレが喜ぶようなことばかりするのだろうか。さすがにそろそろポーカーフェイスが崩れそうだ。

ふいに彼女が顔を上げた。いつの間にか少しだけ赤らんだ頬のまま目を静かに閉じ、触れるだけのキスをしてくる。あの恥ずかしがり屋な彼女の大胆な行動に目を見開いた。自分からしてくることなんて滅多にないから、躯が固まったかのように動かない。

気付いたら、夢中で彼女の唇を奪っていた。何度も何度も啄むように、舌を交えてお互いの唾液を求めるように。寒空の下、なにやってんだバカがとも思ったが、今無性に彼女が愛しく感じられて、本能のまま求めずにはいられなかったのだ。

漸く荒い息を抑えて名残惜し気に唇を離した。先ほどの彼女の少しだけ赤らんだ頬が、真っ赤な林檎のように染まっている。またそれが可愛くて、先ほどよりも強く抱き締めた。それに応えてくれるように彼女もそっと腕を回してくれる。

「あんま可愛いことすんなよ」
「…だって、せっかくだし。嬉しかったでしょ?」
「バカやろ…」
「ははっ。照れた準太、可愛い」
「うっさい」

またからかう言葉を紡ぎそうになった唇を塞いだ。今度はそっと、触れるだけのキスをする。それからすぐにまた離し、腕もほどいて解放してやった。それから徐に道端に転がった傘を拾い上げ、また二人寄り添ってアパートまで歩いていく。アパートに着く直前、オレ達はまたキスを交わした。どちらからともなく笑い出した声を抑えず階段を登り、漸く家のドアを潜ったのだった。





白銀の世界の片隅で
(雪を見ながら夜中に食べた鍋は、そりゃあもう旨かった)

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20100202
何気、初めてキャラ視点で書いたよ
Happy Birthday dear Junta Takase !

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