親から宿題しろだの何だの五月蝿く煩わしい季節。外からは窓を閉め切っても聞こえてくる蝉の声、厚いカーテンで遮断しないと目を瞑っても効果のない日射し、勉強する気にもならなくて動く気にもならないダルい体。昨日入れたばかりの麦茶はもう空っぽのまま冷蔵庫で無意味に容器だけ冷えきっている。

以上を踏まえ、またうちのうっすいカーテンの遮断力に嫌気が指し、紫外線の日光から避けるべく避暑目的で来た場所はもちろん榛名の家。昨日の夜、電話で今日は休みなのだと言っていた。しかし、毎日朝から晩まで練習に明け暮れる野球部に所属している榛名にとっては久方ぶりに訪れる安息の休日、変わって茶道部所属のあたしは活動なんて無いに等しく逆に毎日バイトに明け暮れ宿題には録に手をつけていないぐーたら振り。

と言うわけで、午前中は榛名宅に突撃したいのを必死に我慢し、榛名に睡眠と言う貴重な時間を与え(上から目線)、急いで昼ご飯とも言い難いおかずを掻き込み、足の小指を玄関でぶつけ痛みに耐えながらも自転車でマンションまでかっ飛ばし、1つしかないエレベーターを待つこともできなくて階段を駆け登り、ただいま愛しの彼氏の部屋でクーラーの風に涼んでボーッと寛いでいるのだが、当の彼氏さまに全くと言って言いほど反応がない。

お互いに(と言うか榛名が一方的に)忙しかったため、夏休みが始まって以来の再会だと言うのに、これはないだろう。いや、確かになんの断りもなく家に来たのは悪いかもしれないが、久しぶりに彼女に会えたと言うのにこの仕打ちはなんだ?榛名に会えるのを楽しみにしていたのはあたしだけだったのか?え?それってかなり恥ずかしくない?こんなあたしでもかなり傷付くんですけど。

なんだか淋しくなったあたしは榛名の部屋にあるテレビとビデオデッキを占領し、たまたま傍にあった名前も知らない洋画のDVDを差し込み鑑賞することにした。未だ榛名はベッドで寝転び、音楽プレーヤーで音楽を聞きながら携帯を弄っている。なんだこれ。あれ、あたしってホントに榛名と付き合ってんの?なにこのお互い干渉しないような距離感は。かなりへこむ落ち込むテンション下がる。

我慢できなくなったあたしは勢いよく立ち上がり、榛名を睨み付けるが当の本人は壁側を向いていて、こちらには見向きもしない。更にイラついた。


「ねえ榛名、せっかくあたしが来てんのになにか言うこととかないの?」


…反応なし。無視。つーか聞いてない?あたしは大股でズカズカと榛名に近付き、榛名の耳にはめてあるイヤホンを思い切りよく引っ張って外した。


「いって!!」
「人の話聞いてんの!?」
「…あー?なにがだよ」


ホントに聞いてなかったらしい榛名は気ダルそうに上体を起こし、漸くこちらに体を向ける。寝起き早々に家を訪ねたため、頭には寝癖がついたままだった。榛名はそれに気付いてないようで、頭をガシガシ掻いている。


「で、なんだよ」
「だから!こうして彼女のあたしが家に遊びに来てるのに、彼氏である榛名は彼女放っぽって音楽聞いて携帯弄って無視して、あたしになにか言うこととかないの!?って聞いたの!」
「はあー?」


馬鹿にしたような反応をする榛名にイライラを隠せない。なにこれ、なにこの反応。すっごいムカつく。久々に会えて楽しみにしてたのに、こんな理不尽なことってない!あたしは適当に床に落ちていたティッシュの箱を引っ付かんで榛名に投げつけ、抗議の声も無視して急いで荷物を持ちそのまま部屋を飛び出した。

なのに反射神経のいい榛名はあたしの腕を掴み、突然のことに反応できなかったあたしはそのまま部屋に連れ戻され、掴まれた勢いで後方から榛名の膝の上に座る形となった。慌てて退こうとするも、榛名が後ろからあたしのお腹に腕をガッチリ回しているため脱け出せない。


「おま、いきなり出て行くなよな」
「榛名があたしに構ってくれないのが悪いんじゃん!」
「…へえ、なに。お前、構って欲しかったわけ?」
「げっ」


思わず本音が出てしまったあたしを、榛名は後ろからニヤニヤと見ているに違いない。しかも今冷静になってみれば、これは、この状態は、所謂恋人座り、と言うものではないだろうか。認識してから瞬時に体中が熱くなった。付き合って1年以上経つが、未だにこの様なボディタッチに慣れないあたし。榛名だって普段はあまりこう言うイチャイチャするようなことは好まないのに。正直言ってこの状況はかなり心臓に悪い、バクバクしている。ヤバい榛名に聞こえてませんように。


「おら、どうしたんだよ。オレに構って欲しいんだろ?」
「し…知らないっ!」


榛名が後ろにいる限りあまり意味はないのだが、あたしは口を尖らせそっぽを向いて拗ねてみせるしかなかった。榛名が溜め息をつく音がすぐ耳元で聞こえる。その息にびくっと反応した自分を呪いたい。それにすぐさま気付いたであろう榛名がまたニヤニヤしている筈だ。


「なんだよ、お前。今ので感じた?」
「ばっ…!?」


顔が更に熱くなり、無意味と分かってはいても、居ても立ってもいられなくなったあたしは慌てて榛名の腕を退かそうとする。しかしもちろん女のあたしが敵う筈もなく、男の、しかも鍛え上げられた筋肉を誇る榛名の力に勝てるわけがなくて、無駄に体力を消費するだけだった。しかし変わらず抵抗し続けるあたしに堪忍袋の緒が切れたのか、チッと舌打ちをもらし、それから榛名は足であたしの足を抑えつけ、左手で腕を回し込んで固定し、もう片方の右手で後頭部を固定された。そのままなにをされるのかと思いきや、後頭部を抑えられたまま思い切り後ろを向かせられる。首がグキッと鳴ったので文句の1つでも言ってやろうかと思ったのだが、文句を言おうと開いた口のまま榛名の口に齧りつかれた。

キスなんて夏休み前振りだったので、あまりの突然の行動に頭がついていかない。それを良く思ったのか、いきなり榛名の舌があたしの口内に入ってくる。あたしはその瞬間に感じる、あのニュルっとした感触が嫌で、まだ侵入を1回しか許したことがなかったのに呆気なく侵入をさせてしまったので当然抵抗した。しかし先程も述べたように、足も腕も頭も榛名に自由を奪われているため為されるがままとなっている。

初めてのディープキスは、あたしが今まで何度歯列をなぞられようと、唇を弄られようと、頑なとして侵入をさせなかったのに、突然服の中に榛名の手がブラ越しに乳房を弄ってきた。それに体が驚いて反応し、その刺激でほんの少しだけ口の開いたあたしの油断を榛名が見過ごす筈がなく、侵入を許してしまったのだ。

しかし今回はあまりに不意討ちすぎる。あたしがこんなキスを好きではないと分かってるくせに、わざわざいろんな方法を駆使して実行しようとする榛名はドSだ。あたしは目を瞑らずに榛名を睨み付け、逆に榛名は目を瞑りあたしの口内を犯すことを楽しんでいる。極力絡まないように逃げようとするあたしの舌を、まるでそんなことをしたって意味がないとばかりに無理やり絡み付けてくるから榛名は本当に性格が悪い。裏側から1つ1つ歯列を丁寧になぞられ、あたしの舌を割って入って喉奥まで刺激してくる。だんだんと口内を犯され力が抜けていくあたしは、それを気付かれまいと固定されている手を必死に榛名の服にしがみつかせて対抗する。

しかし、そんなあたしの必死の抵抗を嘲笑うかのように、榛名は自分の服にしがみついているあたしの掌を離して自信の骨ばった手で包み込み、そのまま榛名に体重を掛けられあたしの体は床に押し倒された。変わらず口は榛名に塞がれているため反論の声すら出せない。どちらとも分からない唾液があたしの顎を伝い、首筋を流れ、鎖骨にまで到達する。足は変わらず榛名の足に押さえつけられ、両腕は榛名の右手によってあたしの頭上に固定され、左手は顎を固定している。漸く口が離れ、荒い息を隠すこともできないくらい疲弊したあたしを榛名は見下し、満足気な笑みをしているから悔しいったらありゃしない。


「素直になれないお前のために、しょーがねーからオレが素直になってやるよ」
「…本能に従ってるだけでしょ」
「ま、そーとも言うな」
「バカ」


こうなった榛名をもうどうすることもできないと理解しているあたしは、しょーがなく榛名に身を委ねることにした。それから榛名は早速あたしの鎖骨あたりに顔を埋め、先ほどの唾液をしつこく舐め取り、漸く顔が離れたと思いきや扇情的な笑みを見せつけらされる。その、なんとも言えない色香漂う顔に欲情しないあたしではないのだ。半ば、いや、完璧に呆れ諦めたあたしは、たまにはこういうのも悪くないだろうと自分に言い聞かせて、今から始まる行為に本日初めての溜め息を吐いたのだった。




空腹を潤す獲物
(貴方だけの食料に成り下がる)

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090829(+加筆修正)
なんだこれ。
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