瞬間、待てよと声を掛けられる。誰かなんて確認しなくとも分かるあたしは相当気持ち悪いに違いない。平静を保ちながら、ゆっくりと振り返った。ロッカーから離れていないものの、体はこちらに向けられている榛名と目が合う。教室にはもうあたし達以外に誰もいない。

「お前はオレにプレゼントねーの?」
「…はぁ?」

だからプレゼント!と手を目前に突きだし捲し立てる榛名に、あたしは頭の上に疑問符しか浮かばない。何故、今あたしに榛名はプレゼントを要求しているのかが理解出来ないのだ。

「そんなにあるんだから、あたしから貰わなくたって充分でしょ」
「オレはお前からも欲しーの」
「…何で?」

駄目だ駄目だ、消えろあたしの邪念。これは榛名特有の我儘さであり、決して変な意味は無い。だから自惚れるなってば、あたし!

「だってお前、オレのこと好きだろ」
「……………はあああぁ!?」

邪念と闘っていたあたしは、突如として全く思い付かなかった榛名の発言に腹の底から大声を出した。

少し待って戴きたい。今そんな要素の話題は欠片もなかった。何故あたしの感情が榛名にバレたのか、今はそれを必死に考え頭をぐるぐる悩ませる。しかし当の本人は平然としており、つまりあたしが榛名のことを好きで当たり前みたいな顔をしていた。…なんかムカつく。

「んでそんな驚いてんだよ」
「いやいや驚くわ!何で榛名が知ってんの!?」
「この間オレの部活帰りに、バイト終わりのお前見かけたんだけどよ。大声で、何であたしは榛名なんか好きになったんだろーなー、って言ってんの聞いたから」
「っ…その時点で声掛けてよ!あたしイタイ子じゃん!!」

まさかまさか、あの呟きを本人に聞かれているとは思いもしなかった。

あれは確か先週の事だ。バイト先に凄く格好いい男の先輩がいて、いつもよくしてもらっていた。その時たまたま上がる時間が一緒で、途中まで送ってもらっていた時に告白をされたのだ。相手は大学生で本当にいい人だし、バイトで失敗してもいつも助けてくれた大好きな人だ。でもあたしの好きと相手の好きはもちろん違う意味なわけで、最初は躊躇ったものの結局は断った。相手は始終笑顔で、そっか、でもこれからもよろしくな、と爽やかに手を振って別れた。別れたあとの帰り道、勿体ないなーと分かってはいるものの、頭の中では榛名の顔がちらついて。

だからあたしは、あんな良い男を断って叶いもしない榛名を選んだ自分に嫌気がさして、1人夜道で愚痴ったのだ。つまり、まさにあれを榛名に聞かれたことになる。

「んで?プレゼントは」
「…アンタなんかにあげるもんなんてないし」
「嘘つけ。その紙袋はなんだよ」

…榛名は目敏い。バレないように後ろ手に隠していたものは、気付かれていた。榛名のプレゼントにと思って買ったキャップ。ここのブランドが前に好きだと聞いたから買ったものだ。でも今これを渡すのは、雰囲気からしてかなり恥ずかしい。あたしは自然と紙袋を待っている手に力を入れ、顔を俯かせた。なんだかもう見られていることすら急に恥ずかしくなり、顔が熱いのが分かる。しかしこの俺様はそんなあたしを気にすることなく大股で近付いてきた。慌てて逃げようとするあたしは、すぐに榛名に紙袋を待っている腕を捕まれ、そのまま取り上げらる。

「あっ!ちょ、返してよ!」
「うるせー、これオレのなんだろ?」
「んなこと一言も言ってない!」

あたしより遥かに背が高い榛名は、高々と紙袋を自分より上にあげ、それを取り返そうと躍起になるあたしの図はとても滑稽だ。無我夢中で紙袋に飛び付こうとぴょんぴょん跳ねる様は、端から見たらおかしい人に見られるに違いない。大人が子供をイジメているのと全く同じだ。

上からは人を莫迦にしたような表情でニヤニヤと笑っている榛名がいる。あたしはもう我慢できなくなり、いったん飛び跳ねるのを止めると、そのまま形振り構わず榛名に抱き着いてやった。





触れた体に、
(貴方の匂いを噛みしめる)





数十秒待ってみてもなんの反応もないので、不思議に思ったあたしは恐る恐る顔をあげる。そこには、あたしよりも顔を真っ赤にして固まったままの榛名がいて、なんだか幸せな気持ちになった。

--------------------
090524(+加筆修正090616)
誕生日祝い第二段Part2

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -