あたしの後ろは壁、左と右には腕があり、目の前はその腕であたしを逃げられないようにしている奴が凄まじい形相で睥睨してくる。先程から無言の睨み合いで数分が過ぎた。さすがに疲れてきたのでどう話し掛けようか考えていると、奴が大袈裟且つ盛大に溜め息をつく。あたしの方が溜め息をつきたい。

「お前、今日が何の日か知ってっか?」
「…知らない」

嘘だ。今日が何の日かくらい当然知ってるし、去年までは今日この日を自分の事のように毎年楽しみにしていた。でも、もうそれも今年でおしまいだ。あたしはこいつに疲れてしまったのである。

「嘘ついてんじゃねーよ!」
「ついてなし!ホントに何も知らないってば!」

だって見てしまったのだ。朝のHR終了直後にトイレに行こうとしたあたしは、トイレに行く途中にある階段の踊り場で、プレゼントを差し出しながら告白している知らない可愛い女の子と、それを聞いている張本人のアンタを。モテてるのは知ってたし、告白だってされてるくらい安易に想像できた。でもいざその光景を見てしまうと、頭をハンマーで打たれたように鈍い痛みが走り、身体中に響き渡る。
暫くその場から動けなくて、告白を断ったアイツの声でやっと気付き、足音を立てないようにその場から立ち去った。その後は授業には出たものの、お弁当も食べず放課後までの間ずっと机に突っ伏していて、後は何も覚えていない。ただただ、あの光景がずっと頭から離れなくて、痛みがとれなくて、家に帰ってくるまでもどうやって帰路についたのか覚えていなかった。
家に帰ってすぐ自分の部屋に行き、ベッドの上に倒れ込む。何も考えたくなくて、母親に夕飯に呼ばれるまでずっと寝ていた。起きた後も頭痛が取れなくて、夕飯もまともに食べてない。

それから、アイツがいつものように我が物顔で、あたしの部屋にノックもせずに入ってきたのだ。母親に具合が悪いと伝えとけば良かったと後悔する。せめてお茶でも持ってこようとベッドから立ち上がったところで捕まり、冒頭で伝えたような状況になっている。

「お前、毎年いつも何かくれてただろ。何で今年は何もねーんだよ」
「…何の話?あたし知らないって言ってんでしょ」
「とぼけんじゃねー。オレ知ってんだかんな、今日学校に待ってきてた紙袋に入ってた白い箱。あれ何?」
「あれは…」

しくった、榛名に見られてたなんて。あたしと榛名がクラスが別でも、あたしと秋丸が一緒のクラスだから、榛名が秋丸に会いに来たときに見られていても不思議ではない。
今日学校で渡そうと思って、昨日から徹夜して作ったケーキ。今は存在虚しく、我が家の冷蔵庫の中に入ってる。

「あれは?何だよ。ちゃんと答えろよ」
「…榛名には関係ないし、答える必要もないよ」
「はあ!?ふざけんなよ!」
「な、何でそんな怒んの」

あまりの怒り具合に少し萎縮してしまう。しかも近距離での怒鳴り声もあるので更に迫力を増し、思わずどもってしまった。

「お前、オレが毎年お前からのプレゼント楽しみにしてんの知らねーの?」
「…は?」
「お前以外のプレゼントをまともに受け取ってねーのも知らねーんだ」
「え、あ…?」

意味が分からない。頭がついていかない。何を言われているのか理解できない。今、何て言った…?

「お前以外のプレゼントも、お前以外の奴からの祝いの言葉もいらねーんだよ。嫉妬もいいけど、いい加減素直にオレに寄こせ」
「…!」

何を言われているのか理解した瞬間、顔が赤くなる。身体中が火照ってほわほわする。目を合わせるのが恥ずかしくなって、思わず俯いた。きっと耳まで赤いに違いない。

「おい、返事は」
「…あたしだって好きだよ莫迦」
「バカは余計だっつーの」

あたしを壁際に追い込んでいた腕は一瞬離れ、瞬く間に優しく、でもそれでいて強く抱き締められた。いきなり抱き締められて、驚きと恥ずかしさで最初は抵抗したけど、離れる様子がないので、おずおずとあたしも榛名の背中に手を回す。それから彼が耳元で好きだと言ってくれて、思わず涙が出てしまった。




思惟の先には、
(幸せがありました)




(あのさ、)
(あ?)
(遅くなったけど、誕生日おめでと)
(…おう)

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090524(+加筆修正090603)
企画「ハルナサンダー」さまに提出

実は幼馴染みな2人
ケーキはその後仲良く食べたと思います←他人事

Happy Birthday dear HARUNA !!

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