太陽 | ナノ






今日び海夜に浮かぶ月は真ん丸く黄金の光を放っており、絶好の宴だとバカみたいに騒いで酒を飲む輩たち。その輪から少し外れてちびちびと酒を飲むあたしはなんと滑稽なものだろうか。気を利かせて一番隊隊長が付き添ってくれるのが有り難い。互いに酌を取り合いながら遠巻きにその光景を見つめる。中心で肩を組んで歌を歌う二番隊隊長と四番隊隊長が遠くからでも目立ってすぐに瞳に映った。酒に酔ってるとはいえ、あの太陽のような笑顔はいつだって健在である。それが今のあたしには辛いものでしかなくて、アルコールが入ってるためか涙腺が緩みそうなって慌てて口に酒を流し込んで抑えた。

あの一件があってから、なんとなく隊長に近寄りがたくなったあたしは避けるような数日を過ごしていた。そんなあたしにエース隊長が気づかないはずがなく、何度か追いかけられることがしばしばあったが、白ひげ海賊団で逃げ足だけは早いあたしが捕まることはなくて。一方的に気まずい思いをしながら、今この時を過ごしている。



「最近エースとはどうなんだよい」



まるで今のあたしの心中を察したかのようなタイミングに、口に含みかけた酒を吹いてしまった。器官に詰まって、問いかけておきながらごほごほと咳き込むあたしには目もくれず酒を煽る一番隊隊長。今この時ほどこの人を恨めしく思ったことはない。ちらりと忌々しげな視線を投げかけ、すぐに正面に戻したあたしはまた酒を口にする。



「…なんのことですか」
「とぼけんじゃねえよい」



寸分の隙も与えず、知らない振りをするあたしを容赦なく一蹴。どうやらこの人はなにもかも分かった上で聞いているのだろう。性格悪いなと思いながらも、なんだかんだでいつも上手く丸め込まれ洗いざらい話されるハメになるのが目に見え、しぶしぶ口を窄めながらこの前あったことを話した。








「お前はバカかよい」
「あだっ」



全てを聞き終えたマルコ隊長は、溜め息をつくと同時に容赦なくあたしの頭上に手刀を入れる。丁度いいところに入ったのか、頭が割れるように痛い。自然とでた涙をそのまま、頭を押さえてキっと恨めしげに睨んでやる。しかしそれはあまり効果がないようで、当の本人は満足したようにまた酒を口に含んだ。



「お前はそんなに弱虫だったのかい?」
「は、」
「いつものお前なら、気になることがあるならすぐに本人に聞いてただろ。そういう曲がったことが大嫌いだからな」
「…」
「でも今のお前はただ目の前のことに臆病になってるだけで、その問題から逃げている」
「あたしはそんなつもりは、」
「ないとしても身体が拒否してんだろい。いつまでもそんなぐずぐずしてるようじゃ、誰かに取られちまうぜ」



言ってすっくと立ち上がったマルコ隊長は、手に酒を持ったままジョズ隊長達の輪へと行ってしまった。去り際、あとは自分で考えろと言葉を残して。

とうとう一人だけの空間になってしまって、気持ちを思い直すように残った酒をいっきに飲み干した。アルコールが身体全体を駆け抜けたように熱くなり、ふらふらとした浮遊感を感じながら視界に入ったエース隊長を見やる。そこには未だサッチ隊長と酒を交えながら朗らかに笑っていた。その顔が、ふとこちらを向いて視線がかち合った。久々に合わさった瞳に硬直したあたしだが、その視線はすぐに元の場所へと向けられ気のせいだったのかと思わされる。たったそれだけなのに、あたしは無性に哀しい気持ちに駆られた。避けていたのは自分なのに、いざ向こうにも同じことをされるととても淋しい思いに胸が押しつぶされそうになる。…隊長も、同じことを思ったのだろうか。アルコールのせいで思考判断が鈍くなり、考えるのに疲れたあたしはそのまま自室に足を向けた。